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本城雅人氏の『穴掘り』-死体をうめてしまえば犯罪は露見しないのか-

3.0
本城雅人氏の『穴掘り』という本国内ミステリー
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本城雅人氏の作品のなかでは、第38回吉川英治文学新人賞を受賞した『ミッドナイト・ジャーナル (講談社文庫)』がもっとも有名だろう。テレビドラマ化されたほどなので、未読の人は読んでみるのもいいかもしれない。

ということで、『穴掘り』のあらすじと感想を書いていく。

穴に埋められたカエル

『穴掘り』の【目次】
  • 第一話.二係事件P5〜
  • 第二話.哀しみの掲示板P55〜
  • 第三話.身分照会P105〜
  • 第四話.最終確認P152〜
  • 第五話.秘密の暴露P200〜
  • 第六話.失態P246〜

6つの物語が収録された連作短篇集である。主人公は信楽しがらき征一郎せいいちろうという巡査部長で、警視庁の特別な部署である「二係」の「部屋長」という呼称で呼ばれている。

信楽という人物が主人公であるものの、信楽の視点は1度も使われない。たとえば『一話』と『二話』では、青梅おうめ署刑事課の森内もりうちひかるという男性刑事の視点で物語がすすむ。『一話』で警視庁に上がり、捜査一課の一員になるところからはじまるのだ。

警視庁は捜査一課内に未解決事件を捜査する「特命捜査対策室」を設置した。しかし、それなら「殺人捜査一係」ではないはずだ。不思議に思って、「一係でも未解決事件を扱っているいるのでしょうか」と、本来、平刑事では口も利けない理事官に、失礼に当たらないように尋ねた。
「信楽さんのところは特別なんだ」
江柄子えがらしの口から担当捜査員らしき名前が出た。さらに「きみがやるのは二係事件だ」と言われた。「一係」と言われたのに、今度は「二係」と言われ、頭がますます混乱した。江柄子からは「二係事件というのは『遺体なき殺人事件』のことだ。聞いたことはないか?」と訊かれたが、初耳だったので、正直に「ありません」と答えた。P11

信楽と森内のふたりだけはほかの捜査員たちとは仕事が異なり、行方不明者届のファイルを調べているのだった。なぜ、そんなことをやっているのかというと、

「おい、森内、なにか端緒たんちょを見つけたか」
この日も、毎日訊かれる台詞を言われた。
信楽の言う端緒とは、直近の事件の逮捕者と過去の行方不明者を結び付ける「接点」という意味だ。行方不明者が被害者となる殺人事件に、直近の逮捕者が関わっていないかを調べたいのだが、捜査対策とする逮捕者は殺人犯に限ったわけではない。P12

毎日、朝から晩まで「行方不明者届」をパソコンでチェックする地味な仕事をやるハメになったのだ。

そして、信楽が言う「端緒」を見つけたとしても、そこからが大変なのである。遺体がないため証拠がない。なにかしらの共通点があるのみなので、それだけでは犯罪者が余罪を認めるわけがないのだ。

遺体を処理したということは、殺人などの甚大な犯罪に手を染めた可能性が高い。証拠がないにもかかわらず、それらの重罪を容易に認めることはないのだ。どのようにして難解な犯罪を立証するのか……という物語である。

視点はほかに新聞記者や警察署長など、結末は爽快なものだったり絶望的なものだったりと、6つの物語はそれぞれ大きくちがう。そのため、ひとつかふたつはおもしろいと思えるだろう。

しかし、どれもどんでん返しがあるわけではない。意外性があるとも言えないが、着地点をすこしだけズラしているような結末のものがふたつほどあるので、そこには素直に感心したのである。

「関係はないさ。だけどこうした行方不明事件で遺体が見つかるのって、大概が子供か女性といった弱い人間だ。そういう者が連れ去られた時、残された家族はどう思う?」
「責任を感じるでしょうね」
言おうとしたことを、先に哲太が答えた。
「そうだ。この手の事件は残された家族が一番辛い。それこそ『自分が目を放したからだ』『どうして外出を許したんだ』と自分を責め、身内からは『なぜそうしたんだ』と責められる」P258

子どもと女性が被害者というパターンが多いため、そのような話が嫌いという人は読まないほうがいいだろう。

それに、全体の評価は良くも悪くもなく、ふつうの短編集なのである。そのため、暇なのに読む本がないのであれば手にとればいい、という感じだろう。

死体を埋めれば誰にもバレない―野に放たれた殺人者の罪を明らかにし、寂しき行方不明者の捜査をして30年。愛憎も哀しみも嫌らしさも、この鬼刑事の執念が掘り起こす。社会派ミステリーの旗手が挑む初の本格警察小説。

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