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『だから殺せなかった』一本木透氏/第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作

一本木透氏のだから殺せなかったという本国内ミステリー
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一本木透氏の『だから殺せなかった』は、話題作の『屍人荘の殺人』と栄冠を競い、第27回鮎川哲也賞優秀賞を受賞した作品である。

【『だから殺せなかった』の目次】
  • プロローグP7〜
  • 第一章 家族P27〜
  • 第二章 言葉P93〜
  • 第三章 罪P189〜
  • 第四章 理由P211〜
  • 第五章 真実P265〜

太陽新聞の社会部記者の男性が、会社のソファで仮眠をとっていたところからプロローグがはじまる。

今日の朝刊を広げる。我が太陽新聞が一面で特ダネを飾った。久々の快挙だ。

「首都圏三件のの殺人事件、同一犯と断定」「三都県の合同捜査本部設置へ」

中略
ここ最近、神奈川、埼玉、東京の三都県で発生した殺人事件で、現場付近の遺留品を照合したところ、同一人物の犯行とわかった。P11

連続殺人ものか、とわたしのテンションがあがる。それから各部で取り組みを検討するために、社会部の部会がひらかれる。近ごろの社会部では「シリーズ犯罪報道・家族」という連載に力を込めていて、被害者家族や父親を犯罪者に持つ者などの現状をルポで綴っていた。

しかし、「きれいごとばかり書いている」とか「当事者になった経験がないから、ほんとうの苦しみも伝わらない」とか「ほんとうの『記者の慟哭』を書ける人が、太陽新聞にひとりでもいるのでしょうか?」と手紙やメールなどで実際の当事者たちの声が届けられるようになった。

そのため「記者の慟哭を書け」と部長は提案して主人公を指名し、「男性記者の過去になにかあったのか?」と思わされたところで、プロローグは締めくくられるのである。

そして第一章は、男子大学生の視点ではじまる。父親の日記を盗み見てしまった結果、実子ではないことを知る。そのことを父と母に問い詰めると、両親と血がつながっていないことが判明し、自暴自棄になる。そのため、自分よりも不幸な人を探すのである。

僕は、他人の不幸を探し始めた。
「あの人よりはましだ」と比較考量の幸せを見出そうとした。歪んでいる。でも、だれの胸の隅にもそんな意識がないだろうか。今の僕には他人の不幸がまだ足りない。もっとほしい。親子や血族間のトラブル、特に児童虐待などの新聞記事に興味を持った。たくさん切り抜いて集め始めた。「実の親でも子供にこんなことをする。ならば血なんて関係ない」と自分を慰めたかった。
厚生労働省のデータによると、ニ〇一七年度中に全国ニ百十ヵ所の児童相談所が「児童虐待相談」として対応した件数は十三万三千七百七十八件と過去最多で、前年度よりも九・一%増えたという。
太陽新聞の記事によると、虐待の可能性があっても、証拠が十分でないとか死因が不詳だったら事件化しない。そうして自治体が把握していない死亡例や児相が認知していない虐待死もあるはずで、現実にはもっと深刻な数字が潜んでいる、という。P46

他人の不幸を探すことにのめりこんでいき、自分のほうがはるかに幸せであることを実感する。切り抜いた新聞の記事をバインダーに挟み込むことに、大学生は夢中になるのだった。

別の記事には「警察庁の調べでは、年間千件もの殺人事件が起きている。このうち、親族を殺す事件が半数以上にのぼり、割合も増えている」とあった。
血は少しも愛情の証や絆ではない。むしろ血の濃さ故に憎悪がたぎることもある。ならば血を継ぐことにはどんな意味があるのか――。地に染まった事件に、僕はその答えを探し続けた。「不幸の切り抜き」は、日に日に増していった。P47

その一方、「記者の慟哭」を書き終えて、記者の過去が明かされる。それが掲載されたのち、会社のソファに寝転んでいたとき、記者あての郵便物を手わたされるのだ。

郵便物は封書で、連続殺人事件の真犯人を名乗る人物が書いた手紙だった。「ワクチン」と名乗り、「殺人哲学」を語りたいのだという。太陽新聞の紙面を舞台とし、「記者の慟哭」を書いた記者を挑戦相手に指名する。「ワクチン」の知性に見合った相応の相手であり、上質な言論人なので対決したいのだとか……。

そのあとは真犯人である証拠に、事件の詳細が綴られていく。いわゆる「秘密の暴露」で、各都県警に照会してみればわかるという。そして、最初の犠牲者について語られていき、手紙のさいごは下記のとおりである。

おれの殺人を言葉で止めてみろ。ジャーナリズムと宣う(のたまう)商売道具で、おれを説論し、善へと覚醒させてみろ。その過程で「言葉」の不遜を思い知るといい。これから一字一句の恐ろしさを教えてやる。それがお前に対する挑戦だ。
おれの声明文が届いたら、即座に記事にして翌日の太陽新聞朝刊一面に載せろ。お前の反論は二日以内に載せろ。よく文章を練ってから掲載しろよ。このルールに背いたら、また一人犠牲者が増えるぞ。太陽新聞の読者諸君も楽しみに待っていろ。P110

記者は紙面上でやりとりし、真犯人を説得することができるのか?真犯人の目的とは?第四の事件は起きるのか?

児童虐待、血のつながりは重要なのか……という重い題材である。ほかにもあるが、ネタバレになってしまうので、未読の人のために書かないでおく。

意外な犯人と、さいごの胸糞の悪くなるようなオチ、構成のうまさ、それらにきっとおどろかされることだろう。

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