石持浅海氏の『崖の上で踊る』の冒頭は、下記のとおりである。
笛木雅也(ふえき まさや)の死体は、浴槽に放置した。
湯に浸かっていながら肌は青白く、対照的に溜められた湯は真っ赤に染まっている。血液が体内から湯に移動したことがはっきりわかる光景だった。
P8
「フウジンブレード」という会社の開発部長である笛木は、家庭用の高効率風力発電機の開発責任者である。その製品が人体に影響を及ぼすことが判明して訴訟を起こしたが、金銭目的だと言われ、被害者たちは愚弄されるのだ。
そのため、被害者の一部の人たちは憎しみを深くした結果、「フウジンブレード」に復讐することを企てる。それは社長、専務、開発部長の3人を殺害することだった。
そして、ひとり目の開発部長を那須高原の保養所で殺害したところから物語がはじまる。残ったのは社長と専務だ。しかしどちらかをさきに殺害してしまうと、最後に残った人物に警戒されるので、同日に別々の場所でふたりを殺すという計画を練っていた。
10人の復讐を誓った男女がふた手にわかれ、2日後に実行することにした。それまでのあいだ、全員が保養所を隠れ蓑にして生活するという計画だったが、仲間のひとりがアイスピックで刺殺されていた。
笛木の死体があること、復讐が頓挫してしまうこと、このふたつの理由があるため、警察を呼ぶことは躊躇せざるをえない。
それから保養所を調べまわったが、外部の人間が隠れているということはなかった。それに、ほかの人物が出入りすることもできない。つまり残った9人のなかに、犯人がいる可能性が高いということである。
ミステリーが好きな人であれば、この設定はテンションがあがるよね〜。
ということで、『崖の上で踊る』は良作なのである。冒頭では、10人の登場人物がいっきにでてくるため、かなりテンパることだろう。しかし、そこは心配無用……すぐに人物たちの説明描写があるので、容易に理解できるように施されている。
「中道を殺して、戻ってから決める。今はまだ、そのことは考えないようにしよう。僕たちはまだ、崖の上で踊ってるんだ。余計なことを考えていたら、崖下に落ちてしまう」
P295
『人を呪わば穴二つ』ということを教えてくれる作品である。
那須高原にある保養所に集まった、絵麻をはじめとする十人の男女。彼らの目的は、自分たちを不幸に陥れた企業「フウジンブレード」の幹部三人を、復讐のために殺害することだった。計画通り一人目を殺した絵麻たち。次なる殺人に向けて、しばしの休息をとった彼らが次に目にしたのは、仲間の一人の変わり果てた姿だった―。クローズドサークルの名手が挑む、予測不能の本格ミステリー。
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