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『W県警の悲劇』と『Blue』-葉真中顕氏は飛ぶ鳥を落とす勢いだ!

葉真中顕氏の『W県警の悲劇』と『Blue(ブルー)』という本おすすめ作品
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今回は、葉真中顕氏の2作品を紹介する。

そのまえに去年の傑作である、葉真中顕氏の『凍てつく太陽』は、第21回大藪春彦賞受賞、第72回(2019年)日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞した。すばらしいことである。いま、もっとも飛ぶ鳥を落とす勢いの作家と言っても過言ではないだろう。

そして、『凍てつく太陽』については下の記事を参考にしていただければ幸いである。

このミステリーがすごい!2019年版【国内】本当にすごい21作品!
「このミステリーがすごい!2019年版」が発売されて20日ほどが経過し、2018年も残り数時間となった。そして本書の目玉であるランキングが発表されたため、わたしが厳選したおすすめの21作品を紹介していきたいと思う。

ということで、『W県警の悲劇』『Blue』のあらすじと感想を書いていく。

W県警の悲劇

葉真中顕氏の『W県警の悲劇』という本

【『W県警の悲劇』の目次】
  • うろの奥P5〜
  • 交換日記P47〜
  • ガサ入れの朝P101〜
  • 私の戦いP139〜
  • 破戒P197〜
  • 消えた少女P247〜

上記の6編を収録した短編集である。「警察小説×どんでん返し」と帯に書かれている。

読むまえに、“どんでん返し”があるということを教えられるのは嫌なのだが、それでも楽しめてしまうのだ。そこが、この作品のすごいところである。すべてのあらすじを書くのは面倒なので、2編を紹介しようと思う。

洞の奥

とつじょひらめきは舞い降りた。
そうだ、あのうろだ。
子どものころ、父が誕生日プレゼントを隠した、大きな杉の木。岩を抱くように生えているあの大岩おおいわすぎの洞。
もし父の死が、事故でも、他殺でもなく、自殺なのだとしたら。あそこに何か――たとえば遺書のようなもの――を、残しているというのは、十分にあり得る。P7

冒頭である。父は真面目、誠実、堅物で、警察官の鑑だと褒め称えられているのだ。そして、「正しいことをやるのは警察官だからなのか」と主人公である娘が訊くと、

「いや。それは関係ないな。父さんはやりたいようにしているだけだよ。父さんはな、警察官であるより前に、一人の人間として、常に正しくありたいんだよ」P9

そんな真面目な警察官である父は、県警本部で組織犯罪対策課の課長補佐で、暴力団員らにも一歩も引かずに立ち向かうのだという。その父の背中を追いかけようと思い、娘も警察官になるのだった。

しかしある日、父が遺体で発見される。そのころ、「捜査情報が洩れている」という噂があった。仲間に裏切り者がいる?父は裏切り者に殺されてしまったのか……それとも、暴力団員に消されたのか……という物語なのである。

衝撃のラスト!思わず腰をぬかしてしまうことだろう。

私の戦い

勾留も二週間を過ぎ、取り調べに熱が籠もる。
「おいこら、この変態野郎!てめえには人の心がねえのか!てめえに触られた子はなあ、悔しいって泣いてんだぞ!罪を認めやがれ!」
取調官はスチールデスクを叩き、今にも被疑者に襲いかからんばかりに身を乗り出す。
しかし被疑者は気味の悪い薄ら笑いを浮かべるばかりだ。
「知らないって言ってるでしょ。その女子高生の勘違いですよ」
「てめえ、いい加減にしろよ」
取調官はドスの利いた声で凄む。
その傍らで葛城かつらぎ千紗ちさは、かつて自分が痴漢に遭ったときのことを思い出していた。P141

主人公は、生活安全課の葛城千紗という女性である。定期的に市内の中高生に影響力があるSNSアカウントをチェックしていた。その結果、ユーチューバーのピコタが復活したことを知るのだった。

ピコタは以前、「警察官の目の前で風邪薬を落としたら、追いかけてくるのか」というタイトルで動画を撮影しようとしたところ、偽計業務妨害罪に問われた。のちに略式起訴されて罰金を払うことになったのだ。

〈すでに一部報道で知っている人も多いかと思いますが、私、ピコタは、先月、警察のお世話になりました。いやあ、参りましたよぉ。ついに僕も前科一犯です。取り調べた刑事さん、滅茶苦茶怖かったです。あ、野倉生活安全課のYさん、元気ですか〜〉
画面の中でピコタは、いかにも、おちょくるようにひらひらと手を振った。
「何だこいつ、ざけんな!」
矢野が怒鳴り声をあげてデスクの足を蹴飛ばした。P145

ピコタは動画で警察組織を挑発した結果、ふたたび野倉生活安全課に目をつけられてしまい……という物語なのである。

これももちろんのこと、どの物語もおもしろい。ミステリー好きであれば、必ず楽しめるはずである。未読の人はすぐに読むことをおすすめする。後悔することはないだろう。

警察官であるより前に、一人の人間として、常に正しくありたいんだよ―「警察官の鑑」と誰からも尊敬されていた熊倉警部。W県警初の女性警視へと登りつめた松永菜穂子は、彼にある極秘任務を与えていた。その最中の、突然死。事故かそれとも…。事故として処理したい菜穂子の胸中を知ってか知らずか、熊倉警部の娘が事件現場についてあることを思い出す―。前代未聞の警察小説。

Blue(ブルー)

葉真中顕氏の『Blue』という本

母親は彼を広尾ひろおにある個人経営の産院で産んだ。その産院は今はもうない。母親が生まれたばかりの彼を胸に抱いたとき、ふと見ると、窓の向こうに青空が広がっていたという。
青は母親の一番好きな色だった。だから彼女は彼に「アオ」という名を付けた。呼びかけるときは、ブルーと呼んだ。のちに彼と親しくなる人の多くも彼をブルーと呼んだ。だから私もブルーと呼ぶことにする。
『中略』
ブルーが青空広がる平成最初の日に生まれたということも、彼が逃げた夜、雪が降っていたということも、誰かの真実ではあるのだろう。
だからこの物語も。
私が胸に刻んでいるこのブルーの物語も、まぎれもない真実なのだ。(プロローグ)P6〜8

青梅事件の犯人を追う刑事、ブルーにかかわった人物たち、それらの視点で物語が進んでいく。青梅事件は、平成15年の年末に起きた「一家殺人」である。両親と長女、長女の息子(5歳)、4人が殺害された。

そして、凶器の出刃包丁の柄の部分に、次女の指紋が残されていた。しかし、次女は4人を殺害したのち、薬物を過剰摂取した状態で入浴した結果、死亡していたのだった。

だれのものかわからない指紋や毛髪が見つかったことから、共犯者がいたと判断し、その人物を追うのである。

現場の状況や遺留品などから二つの事件に関連がないことは明らかだが、年末に起きた一家殺害事件ということで、青梅事件は発生時「第二の世田谷事件」などと呼ばれることもあった。P40

傍若無人なブルーの母親に、終始イライラさせられる。それに、外国人技能実習生という制度を利用して日本で働くことになった、ベトナム人女性の話もひどいのである。

ベトナム人の女性は決して返せない額の借金をして日本にきたため、職場を逃げだして強制送還されることは避けたいのだ。期限は3年である。そのあいだ、転職はできず、おなじ職場で働くのが原則だという。だが、それをいいことにひどい目に遭うのだった。

『亀崎ソーイング』の経営者は禿げ上がった頭に太い眉毛が印象的な五〇がらみの亀崎という男性だった。日本人の従業員は、この亀崎社長と、パートの経理の女性だけ。工員は全員が女性の外国人技能実習生だった。
全部でニ〇人ほどいて、中国人とベトナム人が半々くらい。同じタイミングで新入がリエンを含み四人加わった。ベトナム人が三人で、中国人が一人だ。P275

この亀崎社長という人物がクズすぎるのだ。期限の3年間は退職することができないため、ひどい扱いをするのである。

“日本人の従業員は、この亀崎社長と、パートの経理の女性だけ。工員は全員が女性の外国人技能実習生だった。”この部分で想像できると思うので、詳しくは書かない。

『格差社会の闇に迫る、クライムノベルの決定版!』と帯に書かれた本書は、児童虐待や子どもの貧困などをテーマにしているので、かなり重たい話である。そのような内容を好まない人におすすめすることはできないが、小さな希望がラストに用意されている。そのため読了したとき、「ああ、それを伝えたかったのか」となるはずだ。多くの人に読まれるべき作品である。

その怒り、その悲しみ、その絶望。なぜ殺人鬼が生まれたのか。児童虐待、子供の貧困、外国人労働者。格差社会の闇に迫る、クライムノベルの決定版!新大藪賞作家が、平成に埋もれた真実をあぶりだす!

葉真中顕氏の作品がはじめての人におすすめの文庫本3冊

「葉真中顕氏って誰よ?読んだことないよ」という人は、デビュ作の『ロスト・ケア (光文社文庫)』を手にとってみることをおすすめする。

現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。「BOOK」データベースより抜粋

上記のように評価されたのである。これを読めば、きっとほかの作品に目を向けたくなるだろう。

葉真中顕氏の『Blue』の帯

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