今回は、雫井脩介氏の『犯人に告ぐ(3) 紅の影』を紹介する。
(3)となっているように、シリーズものである。1作目の『犯人に告ぐ〈上〉 (双葉文庫)』は、
- 2004年版「週刊文春ミステリーベスト10」→第1位
- 2005年版「このミステリーがすごい!」→第8位
- 第26回吉川英治文学新人賞の候補
- 第7回大藪春彦賞を受賞
上記のように2004年のミステリーシーンを席巻したのである。そして、2015年に発刊された2作目の『犯人に告ぐ(2)(上) 闇の蜃気楼 (双葉文庫)』が1年ほどまえに文庫化されたので、未読の人は手にとってみるといいだろう。
ということで、『犯人に告ぐ(3) 紅の影』のあらすじと感想を書いていく。
一人取り逃している。
それも、リーダー各と見られる男だ。
水岡社長には大下と名乗っていた。
この男は、先に振り込め詐欺事件で摘発された社本豊のグループの指南役を務めていたアワノという男と同一人物だと見られている。
さらに言えば、社本のグループで一時期詐欺を働いていたと思われる向坂篤志を殺して、遺体の服に「RIP」の文字を残し、丹沢の山中に遺棄した犯人[リップマン]も同一人物である疑いが高いと考えられている。P16
「大下=アワノ=リップマン」という3つの呼ばれ方をしている人物を追うのは、捜査本部を指揮している神奈川県警特別捜査官の巻島史彦と、その仲間たちである。
そして捜査本部では、トラックの車載カメラに捉えられた「リップマン」の顔画像を手に入れていた。しかし画像は鮮明でなく、それに横顔しか捉えられていなかったのである。
そこで捜査本部は奇策に頼ることにした。AIに任せるというのだ。あらゆるカメラのデータを集める。画像の人物と、それに似た人物、それらがどこのカメラに捉えられたかという情報を収集する。最終的には「いつ、どこに、その人物が現れるのか」をAIに予想させてリップマンを捕まえるという。
一方、リップマンはあいかわらず詐欺をつづけていた。
ただ、横浜や川崎あたりでは[ワイズマン]と呼ばれる金主が詐欺集団を束ねて、相当な荒稼ぎをしているという話は、裏の世界では数年前から有名だった。そして、[ワイズマン]自身は決して外部に姿をさらさず、実質的に詐欺組織を整えて活動を指揮しているのは[ワイズマン]の弟子とも言える指南役の男だということも。
道具屋や手配師は、いくら口が堅いとはいえ、[ワイズマン]の一味と取引があるということくらいは同業者に洩らしていておかしくはない。それが自身の箔にもなるからだ。P60
「ワイズマン」の指示をうけた「リップマン」は、警察組織を相手にしてあることをやるという計画に動きだすのだった。
淡野と[ポリスマン]は、言ってみれば、[ワイズマン]の弟子筋に当たる。淡野は十代の頃なら、[ワイズマン]が描いた筋書きのもと、詐欺や恐喝といった犯罪に手を染めてきたが、[ポリスマン]にもそうやって、[ワイズマン]から裏稼業のいろはを学んだ時期があった。時には淡野と彼が組んで、一つのシノギをものにしたこともあった。P93
金主の「ワイズマン」の手下である「ポリスマン」は、警察組織にもぐりこんでいてスパイのようなことをやっているのだ。

これはおもしろくなるぞー。まちがいない!
「ワイズマン」「リップマン」「ポリスマン」たちがいる悪の集団を、警察組織は一網打尽にすることができるのか……ある方法を使って、巻島と「リップマン」は言葉のやりとりをする。なぜ「リップマン」はそのようなやりとりをするのか……という物語なのである。
最後まで読むと落胆させられる。それまではおもしろいのに……。メインの謎を明かさないのはよろしくない。「真相を知りたかったら、次回作を乞うご期待!」という終わり方なのである。
読了したときのわたしは、「はあ〜これで終わりなの!」と叫んでしまった。しかも、その明かされない謎が複数あるのだ。ここにそれを詳しく書いてしまうと、「この謎は明かされないのか」と思いながら読むことになるので、未読の人のために書かないでおく。
それに、前作ふたつを読んでいないとあまり楽しめないのも欠点である。前作ふたつを読み、なおかつ、宙ぶらりんになった謎の真相を知ることができないまま、いつ発刊されるのかわからない次回作をゆっくり待つことができる人にはおすすめである。
ほかにも欠点がある。人物名が多いことだ。冒頭の50ページまでに20人ほどの名前がでてくるし、作品全体では40人くらいだろうか。1度ほど出てきて終わりって人がかなり多い。憶える必要はないので問題ないが……。
あと気になることは、1作目の「バッドマン」、「リップマン」「ワイズマン」「ポリスマン」と、雫井脩介氏は○○マンが好きなのだろうか……。
闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった―史上初の劇場型捜査が幕を開ける。第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。
神奈川県警がその威信を懸けて解決に導いた「バッドマン事件」から半年、特別捜査官の巻島史彦は、刑事特別捜査隊を指揮し、特殊詐欺集団の摘発に乗り出していた。そんな中、振り込め詐欺グループに属していた砂山知樹は、指南役の天才詐欺師・淡路からこれまで日本の犯罪史上に類を見ない新たな誘拐計画を持ちかけられる。標的は横浜の老舗洋菓子メーカー“ミナト堂”。その“ミナト堂”と知樹には浅からぬ因縁があった―。2004年のミステリーランキングで軒並み第1位を獲得した警察小説の傑作、待望のシリーズ第二弾!
横浜の洋菓子メーカー〔ミナト堂〕の父子を誘拐した〔大日本誘拐団〕の実行犯逮捕から間もなく、
神奈川県警特別捜査官の巻島史彦は、主犯格と見られる淡野を追っていた。
一方、捜査の手をかいくぐって逃げ延びた淡野は鎌倉に潜伏し、警察を出し抜く新たな犯罪計画を立てていた――。
大人気警察小説シリーズ、待望の第3弾。
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