今回の『泥濘』も、やはりおもしろい。500ページほどあったが、いっきに読んでしまったのである。そのため、多くの人に手にとってほしいシリーズ作品なので、より楽しむためにも順番を書いておく。
疫病神シリーズの順番
直木賞受賞作の『喧嘩』が文庫化(2019年4月24日)されたため、単行本のページでなく、文庫本のページに飛ぶようにリンク先を変更。
- 『疫病神 (新潮文庫)』
- 『国境 上 疫病神シリーズ (文春文庫)』
『国境 下 疫病神シリーズ (文春文庫)』 - 『暗礁〈上〉 (幻冬舎文庫)』
『暗礁〈下〉 (幻冬舎文庫)』 - 『螻蛄(けら)―シリーズ疫病神 (新潮文庫)』
- 『破門 (角川文庫)』
- 『喧嘩 (角川文庫)』
上記のとおりである。そして、2番目の『国境』までは読んでほしい。黒川氏の最高傑作だからだ。そこまで読んだら、さきを読まずにはいられないと思う……。
泥濘のあらすじと感想
疫病神はとつぜん姿をあらわす……。
マキがピピッと鳴きながら飛んできた。頭上を旋回する。マキ、降りといで――。手をかざしたが、とまろうとしない。マキは高く舞いあがり、雲の向こうに消える。どこ行くんや、迷子になるで――。
眼をあけると、マキは二宮(にのみや)の胸の上で片足をあげ、羽を広げて伸びをしていた。
ドアノブをまわす音がした。悠紀(ゆき)か――。いや、悠紀なら鍵を持っている。
「マキ、誰か来た。客かな」客ならノックくらいしろ。
どちらさん、ドアに向かって声をかけた。
「わしや、開けたれ」
聞き憶えがある。というより、耳に染みついた悪魔の声だ。
「しもた。返事をしてしもたがな」
(ソラソウヤ、ソラソウヤ)マキは小さくあくびをする。
「こら、なにしとんのや。開けんかい」
「いま、取り込み中ですねん」
「何を取り込んどんのや。洗濯物か」
「いや、その、ちょっと体調がわるうて……。またにしてもらえませんか」
「二宮くん、講釈はええから、顔を見せてくれるか」P7〜8
マキというのは、二宮が飼っているオカメインコである。マキとの会話を楽しんでいると、建設コンサルタントの代表である二宮の事務所に、「ニ蝶会」の若頭補佐である桑原があらわれるのだ。トラブルを起こし、すぐに暴力をふるうイケイケドンドンなので、状況を悪化させてしまう。そのせいで、二宮は側杖を食うことになる。
そして、桑原が持ってきたのは新聞だった。警察OBが歯科診断報酬の不正受給に関与という記事を見せられたのち、金の匂いを嗅ぎつけたことを告げられるのである。
そのあと、シノギのために二宮を連れまわす。ヤクザに鉄バットで頭をかち割られたり、逃げるために建物の窓から飛び降りて足をケガしたりと、二宮は散々な目に遭う。
しかし、桑原から離れることはない。二宮は金が好きであり、桑原は金払いがいいからである。そして、わたしがもっとも気に入っている登場人物は、
「わしがおまえに近畿厚生局へ行けというたら、行くか」
「あほんだら。パシリやないぞ」
「タダとはいわんわい」
「ほう、なんぼや」
「十万」
「子供の使いか」
「二十万」
「要らん、要らん。んな端金(はしたがね)は」
「足元を見くさって。三十や」
「三十万な……」
中川はひとつ間をおいて、「ええやろ。寄越せ」掌(て)を出した。
「いま行け、とはいうてへんわい。おまえの意思を確かめたんや」
「おちょくっとんのか、こら」
「いずれ、おまえに頼む。そのときは三十や」
「へっ、好きにさらせ」P342
桑原と中川の会話シーンである。わたしがもっとも気に入っている中川という男は、大阪府警捜査4課の現役警察官で、階級は巡査部長なのである。たが、捜査とはべつに情報提供や調査などを請け負っている。疫病神シリーズに欠かせないキャラクターだろう。
警察に被害届を出したくても受けつけてもらえなかったり捜査してもらえなかったりする。しかしこの男に依頼すれば、期待どおりの結果をだしてくれる。ただし、金を渡すことが条件だが……。
笑ってしまうのはまちがいない。そのため人がいるところで読むのは控えたほうがいいだろう。

老人ホームにオレオレ詐欺。老人を食い物にする警察官OBグループのシノギを、二蝶会への復帰が叶った桑原と二宮の疫病神コンビはマトにかける。しかし二宮は拉致され桑原は銃撃を受け心肺停止に。予測不能なドンデン返しにつぐドンデン返し。絶体絶命の二人を待つ運命は?
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