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『ジグソーパズル48』【イニシエーション・ラブ】の著者が贈る短篇集

3.5
乾くるみ氏のジグソーパズル48という本国内ミステリー
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乾くるみ氏の「ジグソーパズル48」は短編集である。日常で起きてしまった7つの事件に挑むのは、個性豊かな女子高生なのだという。

そして、本のタイトルと装丁がとてもダサい。著者の名前を知らなかったら、絶対に手にとっていないだろう。読了したときは購入してよかったと思ったため、あらすじと感想を書いていく。

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【ジグソーパズル48の目次】
  • ラッキーセブンP5〜
  • GIVE ME FIVEP71〜
  • 三つの涙P113〜
  • 女の子の第六感P143〜
  • マルキューP183〜
  • 偶然の十字路P233〜
  • ハチの巣ダンスP283〜
ラッキーセブン

舞台は私立曙女子高等学院の生徒会室である。7人の学生がたむろしていて、そのうちのひとりがおもしろそうなゲームを考えたと言いだすのだ。トランプを使ったゲームで、

「えーっと、カードは七枚だけ使います。あ、七人でやる場合は、ですね。要するに人数分だけ。種類は何でもいいんだけど……スペードにしましょうか。じゃあスペードのAから7までを、まずは用意します」P8

ほかの人にわからないように、ひとりひとりが1枚のカードを手にする。数字が大きいほうが弱いが、7はAだけに勝てる。つまり、A>2>3>4>5>6>7、(7>A)ということである。

そして、戦いたい相手を指名し、数字を言い当て、なおかつ相手に言い当てられなければ、カードの強さは関係なく、言い当てたほうが勝ち。それで勝敗が決まらなかったときは、カードをだしあって勝負する。

勝者は敗者のカードをもらうことができ、敗者はそこで終わってしまう。さいごのひとりになった人が、このゲームの勝者ということだ。大雑把に説明すると、このような感じである。

トランプ

女子高生のトランプ遊びか……そう思っていると、ゲームがはじまる直前、

「それはちょうど、自動証明写真撮影機を二つ向かい合わせに並べたような造りのボックスだった。見覚えのないそんな大きなものが、キャビネットが並んだ東側の壁――だったところに、一瞬にして出現したのだ――」P16

ひとりの女子生徒の「特殊能力?」によって、カードゲームをやるための機械が出現したのだった。ここからが地獄のはじまりである。ゲームの勝敗がついたとき、敗者側のボックスからは、首を切られた死体が転げでてくるのだ。つまり、生き残ることができるのは、ただひとり!命をかけたコンゲームなのである。

GIVE ME FIVE

舞台はカラオケ店である。客が使用しているのはふたつの部屋で、3人組とふたり組であり、客の全員が私立曙女子高等学院の生徒だった。5人は友達だったようで、途中からはふたりのほうが三人のほうの部屋にいき、5人でカラオケを楽しんでいた。

そのあと、ふたり組のほうが3人を残してカラオケ店をでようとすると、事件が起きていたことが露見するのだ。ふたり組のほうのひとりが、「部屋を空けているあいだに、だれかが勝手に入ったのではないか」とカラオケ店の男性アルバイトに訊ねると、

「荷物が荒らされた?被害は?現金とか貴重品とかは?」
「そういうのは大丈夫だったんですけど、あの……、私、デザートのイチゴをタッパーに入れて持って来てたんです。でも食べる前に八号室に合流することになって、そうなると人数分はなかったんで、五号室に置いたままにしてたんです。それをさっき部屋に戻ったときに確認してみたら、二個あったうちの一個が食べられてたんです。――それ以外は、特に何も盗られてなかったみたいなんですけど」P75

ふたつのいちご

苺がひとつなくなっただけ?そう思いきや、一粒2000円の高級品だったのである。アルバイトの男性が店内のカメラ映像を頻繁に見ていたため、外部犯ではないのだ。では、犯人は五人のうちのだれかなのか……アルバイトの男性が探偵役となり、この謎を追うという物語である。

三つの涙

三月五日の午後一時過ぎ。桜町(さくらまち)の《グランデSG》二〇二号室で女性の変死体が発見された。
被害者はその部屋の住人である高知美奈子(たかちみなこ)。二十八歳で無職。タウン誌の編集部に勤めており、無断欠勤を不審に思った同僚が部屋を訪れたのが事件発覚のきっかけとなった。P114

冒頭である。そして、ダイニングキッチンのテーブルには、買物袋として使用していたエコバッグが置かれていた。

購入したであろう商品は入れられたままで、レシートもあった。冷蔵庫に入れていないことから、帰宅後すぐに殺害されたのだろうと推測し、刑事はレシートに記されたスーパーに向かったのである。

冷蔵庫とショッピングカート

被害者が購入したときの、レジを担当した女性従業員の娘……刑事の娘……現場の真下は母と娘のふたり暮らし、その娘……。3人の娘は、私立曙女子高等学院の生徒だったのだ。結末を知った読者は沈鬱になるだろう。

女の子の第六感

ふなっしーやくまモンには負けているものの、名前を聞けばぱっと姿形が思い浮かぶ程度には世間一般に知られている。P152

そのある市のゆるキャラにはまっているクラスメイトは、関連グッズを集めることに夢中だった。近々、その市では市制10周年記念イベントがあり、商店街で福引大会がある。

4等はゆるキャラのスマホケースで20人に当たり、しかもそれは非売品なのだった。しかしイベントの日は平日なので、学校を休まないと行くことができない。

そんなとき、救世主が現れるのである。クラスメイトのサッカー少女で、福引がおこなわれる日、その市でサッカーの親善試合に出場する予定があるのだという。そのため、サッカー少女に引換券を託した。

芝生とサッカーボール

当日になると、福引の結果のことが気になったクラスメイトが、ゆるキャラ好きの少女にそのことを訊ねた結果、「なかった」とメールがあったという。しかし次の日、サッカー少女は非売品のスマホケースをつけていたのである。

いったいなにがあったのか……その謎を追うのだ。真相を知ったとき、「なるほど!」と言ってしまうだろう。

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マルキュー

「三学期も半ばというこんな時期にクラスが移動になって、大変だとは思うけど、残りあと一ヵ月ほどの間、みんな仲良くしてあげてね」P186

ひとりの女子生徒が、1年5組から9組に編入することになった。その理由は、内緒でアルバイトをしていたからである。

各学年の九組とは――「特進クラス」と言えば聞こえはいいが、略さずに「特別進路指導クラス」と言うと、特別な才能を持つ優秀な生徒の進路指導を行うクラスという意味にも取れるが、特別な指導を要する問題児を集めたクラスという意味にも受け取れる。実際、そのどちらのケースにも対応できるように、この校則は条文の文言を慎重に選んで作られたものらしい。P193

優等生と問題児が2極分化されたクラスなのである。どうして黙ってアルバイトをしていたのかとクラスメイトに訊かれると、父親が保証人詐欺に遭ったので自分の学費くらいは稼ごうと思ったのだという。このままだと公立に転校しなければならない。

そこで、クラスメイトたちは知恵をだしあった結果、特待生という制度に目をつけたのだった。1年間の学費が免除されるからである。だが条件は厳しいのだ。

「直近の学年末試験の得点が、主要5教科のすべてにおいて、学年平均点との差よりも満点との差のほうが小さいこと。」P206

ここ5年ほどのあいだに、特待生になった者はいない。それほど困難なことらしい。

ペンでノートに文字を書く

「そういうことじゃなくて、純粋に、学年平均点が高くなるような簡単な問題のほうがいいか、それとも平均点が低くなるような難しい問題のほうがいいかを聞いているの。学年平均点が九十点になるようなテストと、平均点が四十点ぐらいのテストは、どちらのほうが特待生の資格を狙いやすいか?」
「それは――平均点が九十点のほうです。簡単なテストのほうです」P210〜211

というわけで、平均点をあげるため、ひとりの生徒を特待生にさせるため、クラスメイトたちが動きだすのだ。よくできた作品である。

偶然の十字路

私立曙女子高等学院には、防音棟というものがある。防音処理が施された部屋を持つクラブ棟で、4つある部屋の中央部分が十字になっている。その十字路の十字のところで、女子生徒がだれかに殴られて気絶したという。

パンチ

犯人は殴るために待ちかまえていたのだろうか……。そして真相を知ったとき、「ふーん」という感じである。この書籍のなかで、唯一のハズレ作品だろう。

ハチの巣ダンス

卒業式を終えた高校から、私物が校舎に残っているという連絡があり、それをとりにいった帰り道のことである。友達とふたりで歩いていると、スマホに電話がかかってきた。登録していない番号が表示されていた。出てみると、若い男性の声だった。用件があるのはあなたではなく、友達なのだという。その友達は近頃、スマホをおとした。それをひろったのだと告げられて、

「うん。でね、ただ返すだけじゃアレだから、お礼をいただけないかなって。そうだなー、まずは百万」
「えっ、百万?どういうことですか?」P285

そしてこの男は、スマホをおとした子が飲み屋で飲酒していたことも知っていたのである。合格した大学にバレたら大変なことになってしまうため、曙女子高等学院の9組で3年間いっしょだった7人が集まり、スマホをとりかえそうと企むのだ。

「いちおうネットで調べてみたんだけど、完全に飲み屋。食事もできる居酒屋とかじゃなくて、お酒を飲むためだけにあるお店ーって感じの」
「そのお店の店員がスマホを持っているってことは、そう簡単には言い逃れが効かない感じか」
「ちなみにお店のホームページにはスタッフ紹介のコーナーがあって、若い男性の店員は三人だけ載ってた」
「じゃあ私に電話してきたのは、その三人の中の一人に絞られるってことか」
「それもそうだけど、今回の件ってその中の一人だけが企んだとかじゃなくて、たぶんその三人の共犯だと思う。スタッフのブログコーナーみたいなのもあって、そこに載ってたんだけど、その三人がどうも共同生活をしているみたいなのね。お店が所有しているマンションの部屋みたいなのがあって、3LDKの部屋を男性従業員の宿舎にしてるみたいで。一緒に住んでてそういうのって、なかなか秘密にできないでしょ」P292〜293

夜のアパート群

従業員の3人が出勤しているあいだに、マンションの部屋に侵入してスマホをとりかえすことを思いつくのだ。

無事にとりかえすことができるのか……ミステリーらしい作品なので、かなりおもしろいのである。

さいごに

本のタイトルである『ジグソーパズル48』と、装丁がダサすぎる。どうして「48」なのか……AKB?

しかし、おもしろくないのはひとつくらいなので、読んで損はないだろう。それに、かなりいい作品がふたつある。きっと楽しめるはずである。

日常で起きてしまった七つの事件。解決に挑むのは個性豊かな女子高生!「イニシエーション・ラブ」の著者が贈る連作ミステリ短篇集。

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