「ループものにまだこの手があったか!」「現役女子高生17歳、鮮烈デビュー!」と帯に書かれた、日部星花氏の『偽りの私達』を紹介する。本書は第17回の【このミステリーがすごい!】大賞の隠し玉である。


ということで、『偽りの私達』のあらすじと感想を書いていく。
『偽りの私達』の【目次】
- 一章.土井修治の手記P7〜
- 二章.桐島七瀬の記憶P105〜
- 幕間.とある元【まほうつかい】の一人語りP189〜
- 終章.渡辺百香の独白P207〜
一章の主人公の“俺”は、K県S市に住む、高校2年生の土井修治である。父親の遺産でひとり暮らしをしている。
俺が【まほうつかい】の存在を信じはじめたのは、その日起きて、ベッドの側に置かれたデジタル時計を目にした、その瞬間からだった。
「……なんで、今日が七月八日なんだよ」
そう。昨日は間違いなく夏休みを目前にした七月十七日だった。
俺の記憶が正しければ、今日は七月十八日のはずで、七月八日ではない。P8
時間がもどったのは、【まほうつかい】が原因なのか……【まほうつかい】はS市の都市伝説で、選ばれたひとりの人間が【まほうつかい】となり、1度だけだれかを救うための【まほう】を行使することを許される、というものである。
都市伝説を裏付けるような資料はいくつか残っているらしく、「不治の病が治った」や「証拠も何もない完全犯罪」などがあるのだという。
昨日(7月17日)、クラス1の美少女・渡辺百香が階段から落ちて死亡した。その彼女を救うために、【まほうつかい】が【まほう】を使った結果、「“俺”の時間がもどってしまったのでは?」と推測したのだ。
そして7月8日の2度目の朝、桐島七瀬とふたりで学校に向かう。桐島七瀬は、
桐島七瀬という少女が俺にとって何者かと問われれば、それは一番仲のいいクラスメイトというのが正解だろう。男友達を全て抜いても、一番仲がいい。それは間違いない。
とはいえ、友だち、ましてや恋人と表現するのは自分たちにとっては不自然に思える。それなら幼馴染みか、と聞かれてもまた正しくないのではないかと感じる。P15
このような少女である。登校中に聞いた話では、夢中になっていた彼氏に別れを告げたという。原因は彼の浮気らしく、友だちが証拠画像を送ってきたのだ。
その友だちが2年B組のボスである。
……そりゃ、鵜呑みにしなくちゃならないわけだ。
前述の通り、白石瑠夏は二年B組のボスだ。彼女の意向に逆らえば、七瀬のようなクラスの中心人物でも、日陰者とするべく淘汰され、以降クラス内の自らのヒエラルキーを変えることは叶わないだろう。P21
「浮気している、別れたほうがいい」とボスの白石に言われれば、従わざるをえないのだ。それに、彼に手をだしたのは渡辺百香だという。
“俺”は気づくのである。渡辺百香が転落死したのは、三角関係が原因なのでは……その真相を“俺”が追うという物語なのだが……。
「【まほうつかい】なんて子ども騙しじゃねぇーか」とか「時間がもどるなんて、現実味がなさすぎ」とか、そのように思う人がいるかもしれないが、先入観を捨てて読んでみてほしい。
「ああ、あれはそういう意味だったのか」「ああ、あれは伏線だのか」というところが数か所あり、幾度もひっくり返してくる。そのため、必ず楽しませてくれるはずである。
しかし、少女同士の“いじめ”の描写があるので、そのような話をまったく受けつけないという人は、読まないことをおすすめする。
高校二年生の土井修治が綴った手記。そこに描かれるのは、七月十七日から七月八日に時間が巻き戻っているという信じがたい現象だった。果たしてこの現象は、都市伝説として囁かれる“まほうつかい”が引き起こしたものなのだろうか。ループの原因は、学校一の美少女・渡辺百香が校舎の階段から転落死したことにあると考えた土井は、なぜ彼女が死ぬことになったのか調べ始めるが…。
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