倉井眉介氏の「怪物の木こり」は、第17回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作である。
【感情のないサイコパス弁護士VS斧で襲い、脳を奪うシリアルキラー】と帯に書かれていて、サイコパスものが大好物であるわたしは本書をすかさず手にとった。
そのため、あらすじと感想を書いていこうと思う。
男性弁護士が自宅マンションの地下駐車場で襲われる。
雨でもないのに青いレインコートを羽織り、頭には鋭い牙と、大きな耳の生えた怪物のマスクを被っている。P18
それに斧を持っている。そのような人物に殺されかけたサイコパス弁護士は、怪物マスクをさがして殺害することを誓うのだった。
しかし、頭部を怪我したせいで身動きがとりづらいため、ひとりだけいる友人に頼ることにした。サイコパスの殺人者であることを知っていて、協力し合ってきた仲なのだという。
一方、何度も斧を振り下ろしつづることで頭蓋骨を破壊して脳をとりだし、それを持ち帰るという事件が起きた。女性刑事がその犯人を追うのだが、手ががりをつかむことができず、被害者は次々と増えていく。
一人目の被害者である石川は人のものをほしがる性格で、二人目の岩田は前科者。三人目の満田と四人目の鈴木は取材対象や生徒に対して脅迫めいたことをしていた過去が新たに発覚し、五人目の小林は融資引き揚げなどの判断に情の欠片もない冷徹人間との評判が立っていた。つまり、全員が人から恨みを買いやすい人間だったのだ。
「ふむ。それなら小林をターゲットから外さなかった理由を説明できるな。被害者が養護施設出身だという情報も、殺害を頼んできた人間から個別に得ることができるというわけか」P108
被害者の共通点は、恨みを買いやすく、養護施設出身であるということだった。
そして、頭をかち割って脳を持っていくことから『脳泥棒』と名づけられ、世間を震撼させるのだ。サイコパス弁護士VS脳泥棒、それに脳泥棒を追う警察組織……果たして結末は……という物語である。
おもしろく読むことができたが、サイコパス男性の職業が弁護士なのはどうしてだろうか。そのような疑問がわいてくる。
仕事中の描写はほぼ皆無である。だからといって法律を屈指し、『脳泥棒』をさがしたり追いつめたりするわけではない。それに、弁護士の特権を行使することもないし、法廷のシーンがあるわけでもないのだ。
それならコンビニ店員、大学生、IT社長、無職など、職業がどれであっても、この物語は成立してしまうだろう。読了したとき、そのことが気になってしまうかもしれない。
だが、ぶっ飛んだ設定と、さきを読ませない展開。そのふたつが読者を楽しませてくれるので、おすすめしたい作品である。
そしてこちらが優秀賞受賞作。

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