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【カインの子どもたち】浦賀和宏氏/私の家族は人殺しなのか……

浦賀和宏氏のカインの子どもたちという本国内ミステリー
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今回は、『私の家族は、「人殺し」なのか。』という文言が帯に書かれた、浦賀和宏氏の「カインの子どもたち」を紹介する。

私の祖父は人殺しだった。P5

上記の文章は1行目である。これだけで「絶対おもしろくなるはずだ」と、わたしは確信した。「人殺しだった」――「うん?だった?」となり……「いまはちがうのかい?」と……。

昭和28年のある日、事件が起きた。当時の祖父は府中で働く工員で、素行がいいとは言えなかった。酒を飲んで喧嘩し、たびたび警察のやっかいになっていた。女性に手を上げた罪で前科もあったのだという。

酒を手放すことができずに金に困っていた祖父は、金貸しの女性を撲殺して家に火をつけた疑いで逮捕された。ズボンの裾に殺された女性の血液、燃え残った部屋から指紋が発見される。それらの証拠と、借金をもみ消すという動機があったため、府中放火殺人事件の犯人と目されたのだった。

そして、15年の歳月を費やして最高裁まで争ったが、1審と2審の判決は覆らず、死刑は確定した。それから47年のあいだ、死刑の執行は先延ばしにされている。そのため現在、日本最長の未決囚なのである。祖母は祖父の無実を信じつづけていたが、すでに他界し……両親は、

父と母は、祖父が冤罪だと主張する人々の集会で出会った。つまり私は祖父が死刑の判決を受けたおかげで、この世に生を受けたのだ。祖父が有罪であれ無罪であれ、私は祖父に死刑を宣告した裁判官に感謝しなければならなかった。P6

祖父が逮捕された直後は、父と祖母は府中にいられなくなり、日本の各地を転々として暮らしていた。

しかし母と結婚し、府中にもどってきたのだった。犯行が起こった街に住みつづけることも、祖父の無罪を主張するアピールになるのだとか……。

「このふたりの子どもだったらたまらんよな」と思ったら、案の定……下記のとおりである。

小学校に上がると、さすがに自分の祖父が死刑囚である意味が分かり始めた。人殺しの孫、とイジメられるのは日常だった。クラスで一番成績の良い男子が、私に向かって、
「立石(たていし)アキはカインの孫だもんな」
と言った。彼はこのクラスの学級委員で、学年全体の委員のリーダーでもあったから、普段から委員長と呼ばれていた。皆は、意味も分からず委員長の真似をして、カインの孫、カインの孫!と冷やかした。P9

という悲惨な幼少期を過ごし、大学を卒業する。だが、40年以上も拘置所に留め置かれている祖父が有名人であるため、就職には苦労させられたのだった。けっきょく、両親に紹介された商社に事務として入り、死刑囚の孫として日々を暮らしていた。

そんなある日、女性ジャーナリストが会いたいと言っている、と聞かされるのだ。テレビに出演し、美人で明るく、口調はとても社交的で、主人公とおなじように死刑囚の祖父がいる。そのような人物である。

そして会ってみると、女性ジャーナリストはとんでもないことを伝えてくるのだ。どちらの事件も冤罪で、しかもふたつの事件の犯人はおなじ人物だという。その真相をふたりが追うのだが……という内容である。

物語の前半は、主人公にイライラさせられる。わたしは過度に人に依存する大人が苦手なので、余計に腹が立ったのかもしれない。

なんでもかんでも人に頼る人に限って、失敗を人のせいにしたり自分の思っていたとおりにならないと文句を言ったりする。それでも駄目なら、陰で悪口を吹聴する。そして、どんどん被害妄想をふくらませて攻撃してくる。どう関わっても損なのである。

ということでこの作品は、真相を悟られずに感想を書くのはむずかしい。「○○もの」とか「○○系」とか……それらを使えばふたつあてはまるが、真相を明かすことになってしまう。そのため書かないでおこうと思う。

好き嫌いがはっきりわかれるような気がするが、ミステリー好きで許容範囲が広い人であれば楽しめるだろう。

しかし、そういう人であっても狭い範囲のなかに、この「○○系」が入っていたら残念な結果になるのだが……。わたしは好きなので、おすすめしたい作品である。ぜひ、手にとってみてしてほしい。

数奇な絆を持つ女たち―時を超える真実を暴け。立石アキは死刑確定から40年以上拘置され続けている男の孫だ。祖父との血縁関係が原因で、子供の頃から人生に行きづまりを感じていた。しかし、彼女の運命は急転する。アキと同じく死刑囚の孫でジャーナリストの泉堂莉菜が、事件の新情報を手に突然接触してきたのだ。祖父らの冤罪を証明するため、「真犯人」を探し始めた二人だが―!?書き下ろし。

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