ドウェイン・スウィアジンスキー氏の『カナリアはさえずる』は、エドガー賞(長編賞)にノミネートされた作品である。マイクル・コナリー氏が絶賛したが、受賞を逃している。おもしろい作品なので紹介したいと思う。
十一月二十七日
ハイ、ママ。わたし、ゆうべ逮捕されちゃった(みたいな)。上巻p9
上記は1行目である。女性が母親に向けた(日記?)のようなものが記され、そのまま物語はすすんでいく。パソコンや携帯電話だと第三者に盗み見られるかもしれないことと、紙は燃やしてしまえること、そのふたつが理由となり、手書きなのだという。
女性は、優等生プログラムで大学に入ったばかりの17歳である。感謝祭前の学内パーティーに参加すると、「車であるところに乗せていってほしい」とDという男性の先輩に頼まれる。女性以外にしらふの人がいないため、送っていくことになった。
そして日記は終わり、秘密麻薬捜査官の視点になる。32歳の男性で、2件のタレコミをうけて車内で張りこみをしている。チャッキー・モルヒネという名前を自称する人物が、大学生を相手に大量の薬物を売っているというタレコミだ。
ほかならぬチャッキー・モルヒネはひどく抜け目がなく、正体をあらわにして逮捕されるはめにはならなかった。借り主の名義は会社になっているが、それはおそらく隠れ蓑だ。チャッキーの本名は、あるいはまた、どんなみかけなのかも、だれも知らない。上巻p31
この人物のアジトを見張っていたとき、車に乗った若い男女が現れたのである。すると、助手席から降りた男性がアジトに入っていき、残された運転手は女性だった。
車の整備不良はないか、交通法規を逸脱しないか、と女性に接触する機会を窺う。
功を奏したのか、女性は交通法規を逸脱した。アジトからの帰り道の途中、飲食店のまえで男性を降ろし、女性が車で周辺を走っていたときだった。サイレンを鳴らし、停車させることに成功する。
そして車内を詮索すると、薬物が見つかるのだ。しかし、飲食店に入った男はそれに気づいて逃走する。追ってみたが、とり逃がしてしまうのである。そのため、いっしょにいた男のことを女性に訊ねるが、「知らない」と言われつづけるのだった。
そのことに業を煮やし、刑務所に入れられて5年ほど服役するか、秘密情報提供者として密売者を見つけてくるか……ふたつの選択肢をつきつける。
どちらを選択しても苦難である。女性はこの状況を乗り越えて、平穏な日常をすごすことができるようになるのか……。
張りめぐらされた伏線と、まったくさきを読むことができない展開、魅力的な登場人物……最高におもしろい作品である。
つづきそうな感じで終わるが、続編を想定しているのかもしれない。わたしとしては続編を期待している。それにしても、著者の名前が憶えにくい。ドウェイン・スウィアジンスキー氏……。
「『カナリアはさえずる』の、著者の名前はなんだっけ?」
そう訊かれたら、3日後にはたぶん答えることができないだろう。去年の年末に読んだ作品だが、いまでもわたしの記憶にはっきりと残っているほどの快作である。もちろん、著者の名前は憶えていなかったが……。
English Editionをさがしている方は下記のページにまとめてあるので、参考にしていただければうれしいのである。

フィラデルフィアに住むサリーは、優等生プログラムでセント・ジュード大学に入ったばかりの17歳。感謝祭前の学内パーティーで、先輩のDに頼まれて彼を車で街まで送ったせいで、彼女は麻薬取引に巻き込まれ、麻薬捜査課の刑事ウィルディに逮捕されてしまう。刑事が送検しない条件として持ち出してきたのは、学内の秘密情報提供者(CI)として捜査に協力することだった。Dの正体を明かすことを頑なにこばんだサリーは、代わりとなる別の売人を見つけ出すために独自で捜査を開始する…。
コメント