数多くの伏線、たび重なるどんでん返し、このふたつがある横関大氏の『彼女たちの犯罪』を紹介する。さいごまで本記事を読んでしまったら、ミステリー好きの人はすぐに書店へダッシュすることはまちがいないだろう。
ということで、あらすじと感想を書いていく。
『彼女たちの犯罪』の【目次】
- 第一部.彼女たちの事情P7〜
- 第二部.彼女たちの嘘P123〜
- 第三部.彼女たちの秘密P221〜
『……続きまして県内のニュースです。今日未明、伊東市の相模灘を航行中の漁船みやま丸が、女性と思われる遺体を発見、引き揚げました。
地元の旅館組合等の協力もあり、伊東警察署は遺体が東京都世田谷区桜木在住の神野由香里さん、三十四歳のものであると断定しました。神野さんは一週間前に自宅を出たきり行方がわからなくなっていた模様です。
神野さんは伊東市内の宿泊施設に泊まっており、伊東市富戸地先の海岸において女性用の靴が発見されていることから、警察は自殺の可能性が高いとして、関係者への事情聴取を開始しました。次のニュースです……』
第一部の『彼女たちの事情』のまえに、上の文章が記載されているのだ。そして、第一部は女性ふたりの視点ですすんでいく。
ひとり目の日村繭美は、34歳、大手自動車メーカー「トウハツ自動車」の広報課に勤め、結婚相談所に登録して婚活中である。大学時代はチアリーディング部に所属していた。
チアリーディング部の同期は全員で九人だ。そのうち七人が結婚している。つまり未婚なのは繭美と亀山優子の二人だけだ。二十代半ばから後半にかけて結婚ラッシュが続き、自分と優子が最後の二人となったときは正直落ち込んだ。P63〜64
周りの女性たちが結婚していく。繭美は取り残されていることに焦り、結婚という“チケット”を手に入れるために日々奮闘しているのだった。
そんなある日の仕事中、繭美は怪我をしてしまった。その結果、病院に行くことになる。そこで再会したのが大学の先輩である神野智明という医師だった。
久しぶりの再会だったが、よろこぶことはできない。繭美が可愛がっていたチアリーディング部の後輩を巻きこみ、大学時代に事件を起こした男だったからだ。そのためいい印象を持っておらず、不快感を覚えるほどであった。
その事件のせいで、後輩のA子は休学して実家にもどることになったあげく、
それ以来、彼女の姿を見ることはなかった。繭美が在学中に彼女が復学することはなく、退学してしまったという噂も流れた。こちらから連絡することも気が引けた。彼女のことは今でも繭美の心の中にしこりとして残っている。P40
しかし智明が会いにきて、大学時代の事件のことを弁解するとともに、くどいてくるのであった。
その結果、交際することにしたのだ。なぜなら、智明の父親も医師で家柄もよく、本人も医師であり、それにルックスもいいからである。まちがいなく、結婚相手としては優良物件なのだから……。
婚期は遅れたが、一発逆転のチャンスなのだ。結婚というチケットを手に入れたのかもしれない。それも、プラチナチケットを……。
一方、第一部の『彼女たちの事情』のふたり目の視点は神野由香里で、智明の妻である。8年まえの26歳のときに結婚して現在は専業主婦だ。義父と義母を含め、4人で暮らしている。
過去に付き合った男性と比較しても、智明の性欲は強い方だと思う。ところが今年に入って彼は一回も妻を抱こうとしない。義母からの提案を話したのも、それがきっかけとなって真剣に子作りを――要は智明が抱いてくれるのではという淡い期待があった。しかし彼は興味を示した様子もなく、逆に子供の必要性を感じないとまで言い始めたのだ。P79
「神社に子授け祈願にいこう」と義母に言われたことを智明に話したあとの描写である。その結果、由香里は浮気を疑いはじめ……。
それに、繭美もあることがきっかけとなり、智明のことを疑いはじめる。智明は既婚者ではないかと……。
私はこの男のことを愛している。同時に殺したいほど憎んでいる。既婚者であることを隠し、私を抱いた男なのだ。
しかし今、繭美の中でもう一つの思いが生まれていた。さきほどの彼の話――聖花大付属病院に戻ったら状況が変わるという話を聞き、あの女さえいなくなれば彼は私のものになるのではないか、と思い始めていた。それにあんな地味な女、そもそも智明の妻に相応しくないのだから。P118
そして、第二部の『彼女たちの嘘』では、第一部のまえのニュースの内容につながるのだ。由香里が失踪したことを心配した智明の父が、ゴルフ仲間である世田谷署の署長に相談したのだった。家出した嫁を捜してほしいという。
だが、静岡県伊東市で由香里の遺体が発見され、自殺として処理されるが……ほんとうに自殺だったのか……自殺の理由は……夫の智明が崖からつき落としたのでは……不倫相手と再婚するために……。もしくは、不倫相手が妻の座を狙って殺したのでは……その真相は……という物語なのである。
数多くの伏線、たび重なるどんでん返し、このふたつがあるので楽しめるはずである。
しかし中盤のある箇所で、「それはないわぁ〜。そんな偶然はさすがにうけ入れられないぞ!」となるかもしれないが、そこで読むのをやめずにさいごまで目を通してほしい。
わたしは中盤のその箇所を読んだ瞬間、『
』くらいにするつもりだったのである。それ以降、集中力が途切れたが、巻き返してくるとともに「なるほど」となったため、最終的には高評価になったのだ。どんでん返しを意識しすぎて、やり方をまちがえた感じである。だが、さいごまで読めばおもしろさがわかることだろう。
そしてラストは、ハッピーエンドなのかアンハッピーエンドなのか……だれの視点で読むのかによってちがうので、はっきり言えないのである。ミステリーが好きな人は、読んでみる価値はあるだろう。
医者の妻で義理の両親と同居する神野由香里。夫の浮気と、不妊に悩んでいたが、ある日失踪、海で遺体として発見される。自殺なのか、他殺なのか。原因は浮気なのか、犯人は夫なのか。一方、結婚願望の強い日村繭美は、“どうしても会いたくなかった男”に再会。しかし繭美は、その男と付き合い始めることになり―。彼女たちに一体何があったのか。
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