作家生活40周年記念、執筆10年に及ぶ大長編、パラレルワールド警察小説、と帯に書かれている。そうはいっても帯の文言は関係がなく、わたしは大沢在昌氏の作品であれば購入して読むのだが……。
ということで「帰去来」のあらすじと感想を書いていく。
囮となった女性刑事が犯人を捕まえるために、都内の公園のベンチに腰かていた。この事件の最初は20年まえに起き、ふたりの女性が殺害された。そののち、「ナイトハンター」と名乗る犯人の犯行声明文が、テレビ局の女子アナウンサーあてに届いた。
1か月後、主婦が絞殺されるが、つぎの犠牲者はでなかった。そして、容疑者として特定されたのは16歳の少年だった。しかし任意同行を求める直前に、「ナイトハンターは、ぼくです」という遺書らしきメモを残し、少年は首吊り自殺した。
それから10年後、つまり現在から10年前、ふたたび連続絞殺事件が発生した。金属製の鎖を使った絞殺事件で、犯人は謎の男ということがわかった。
2件の事件が起きたが、遺留物はなにもなかった。その結果、謎の男にたどり着くことはできなかった。3件目の事件も発生せず、現在に至るのだ。
現在では2件の事件が起きていて、2件目の事件のあとに、「帰ってきました。ナイトハンター」という犯行声明が被害者の携帯電話を使ってサイトに送られた。20年まえに自殺したはずのナイトハンターが甦った?それとも模倣犯なのか……10年まえの「チェーン殺人」との関連性は……。
そして、囮となって公園のベンチに腰かけていた女性刑事は、この犯人を捕まえることができるのか?そう思いきや、いつの間にか現れた人物に首を絞められて、
「さようなら」
男がいって、輪を絞めあげた。その瞬間、あたりがまっ白く光った。男の顔が見えたと思った瞬間、視界が暗転し、すべてが闇に沈んだ。P18
「あれ?殺されてしまうのか?」と思ったら、女性刑事は見憶えのないオフィスで目覚めるのだ。
だが、目のまえにいたのは、半年まえに別れた元彼である。営業マンをやっているはずなのに、なぜか……警察官の制服を着ているのだった。別れたのとほぼ同時に、会社の転勤で上海に旅立ったはずの男だ。
そして、状況を把握できない主人公が部屋を見まわすと、賞状がいくつか額に飾られていた。
何これ。表彰状だ。「東京市警察本部長」――。初めて見る言葉だった。
東京市警察本部。東京は”都”で、”市”ではない。各都道府県に警察本部はあるが、東京都だけは、それを警視庁と呼ぶ。P22
表彰状を見た結果、謎が深まったのである。そのため「今日は何日だっけ」と元彼に訊ねると、
「七月十一日、土曜日、光和(こうわ)二十七年の」
「こうわ?」
壁の時計が見るともなく、目に入った。九時四十分を示している。
七月十一日はあっている。土曜日だからこそ、張りこみをおこなっていたのだ。
だが「こうわ」とは何だ。
「『こうわ』の前は何?」
「承天(しょうてん)です。承天五十二年に戦争が終結し、元号が光和にかわりました。私は承天最後の年に生まれました」P22.23
首を絞められて殺されそうになった結果、「別の世界?」にきてしまったのか……。
いや、殺害されて天国のようなところにきたのかもしれないし、夢を見ているだけなのかもしれない。読み進めていくと、次々と謎がでてきて、パズルゲームをやっている感覚になる。
これだけの大風呂敷をしき、きれいにたためるのはさすが大沢在昌氏である。読んでおくべき作品だろう。
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