主人公は隼瀬順平(はやせじゅんぺい)、30歳、警察庁警備局の所属で、警備企画課の課長補佐、階級は警視、いわゆるキャリア警察官である。
そして冒頭は、法務省の官僚だという男性の遺体が発見される。
「拳銃で撃たれていました。額を一発です」
隼瀬は思わず眉をひそめた。
日本では拳銃による殺人は滅多に起きない。拳銃はたいてい、暴力団同士の抗争で使用される。
一般人が拳銃を入手するのは難しい。しかも、たった一発で仕留めるというのは、素人の手口とは思えない。
「プロの手口のように聞こえるが……」
「拳銃を使う殺し屋が日本にいるなんて、想像がつきますか?」
「想像なんて、何の役にも立たないよ。必要なのは事実だ。手口が拳銃を使うプロを物語っているのなら、そういうやつがいるんだろう」
P16
消去法によって導きだされた容疑者は、米軍基地を経由して日本国内に入ったアメリカ人だという。しかし上司に呼ばれ、「専任チームは必要がない」と告げられて仕事を打ち切られるのだった。
そのことに不満を感じた先輩に「事件のことが気にならないのか」と訊かれるものの、隼瀬は面倒な仕事がなくなっただけだと返答する。だが、50人態勢ではじまった捜査本部がいっきに縮小されたことを知り、なにか妙なことが起きつつあると感じたのだ。
「おまえ、キンモクセイって知ってるか?」
「は……?」
唐突に何を言いだすのかと思った。咄嗟にどうこたえていいかわからない。それくらい妙な質問だった。
「キンモクセイですか? もちろん知ってますよ。ちょうど今頃咲く、いい匂いのする花でしょう」
「俺だってそれくらい知っている。花以外で、その言葉について心当たりはないか?」
「さあ、心当たりはありませんね。どうしてそんなことを訊くんです?」
「岸本が俺に同じことを訊いたのさ。殺害された神谷道雄が残した言葉らしい」
「残した言葉? ダイイングメッセージとか……?」
「ミステリじゃないんだ。実際に、死ぬ間際の人間が、そんなもの残すもんか」
P82
謎の『キンモクセイ』のことに触れてしまったために、外国人の殺し屋に殺害されたのだと推測し、ひそかに調査するのである。それに、隼瀬も『キンモクセイ』のことを聞かされて知ったせいで、身の危険を感じるのだった。
そして、真相をあきらかにするまえに、窮地に追いこまれることになるのだが……。おもしろくなくなってしまうので、内容の説明はここまでにしておく。
「証拠もないのに、軽はずみなことは言わないほうがいいですよ」
「ふん。インテリジェンスの世界に、証拠なんて関係ない。油断したらやられる。それだけだ」
P144
ですって奥さん!怖いね〜。油断したらやられちゃうんですって。インテリジェンスの世界にいなくてよかった。わたしはそう思ったのである。インテリジェンスの世界を覗いてみたい人はどうぞ手にとってちょうだい……。
法務官僚の神谷道雄が殺された。警察庁警備局の隼瀬順平は神谷が日米合同委員会に関わっていたこと、“キンモクセイ”という謎の言葉を残していた事実を探り当てる。神谷殺害事件の専任捜査を極秘に命じられる隼瀬。しかし警視庁は捜査本部を縮小、公安部も手を引くことが決定される。やがて協力者である後輩の岸本行雄の自殺体が発見されるが…。日米関係の闇に挑む本格的警察インテリジェンス小説。
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