石川智健氏の『キリングクラブ』の帯には、「伏線だらけのジェットコースター・ミステリー!」「力を誇示したいならば、人殺し(キリング)ではなく、大儲け(キリング)をすることだ」と書かれている。
それを読んだわたしは、「これはおもしろいはずだ」と思いながら本書を手にとったのである。
【キリングクラブの目次】
- 第一章 キリングクラブP9〜
- 第二章 経営者P71〜
- 第三章 弁護士P133〜
- 第四章 脳外科医P191〜
- 第五章 フリーライターP263〜
- 第六章 刑事P297〜
- 最終章 蛾P337〜
ふたりの女性が、店内で小難しい名前のケーキを食べているところから物語がはじまる。そこで「いい仕事があるんだけど」と誘われ、仕事の内容が語られていく。
「ちょっとした秘密クラブみたいなものなんだけどね。そこでさ、給仕のアルバイトがあるんだけど、やってみない?ちょうど、欠員が出たみたいなんだ」P11〜12
それを聞いた主人公は落胆するのだった。割のいいアルバイトではなさそうだし、面白味にもかけるからである。しかし、落胆したことを察したのか、時給はすごくいいのだと付け加え、指を2本立てるのだ。時給が二千円ならそこそこいいのだが……そう逡巡していると、時給は二万円だという。
時給二万円の、給仕の仕事?
どう考えても怪しすぎるが、主人公の女性はフリーライターであるため興味がわき、その仕事をやることにしたのである。
主人公が働きはじめた場所ではゲスト、ホステス、給仕、バーテンダー、カジノディーラーなど、いろいろな人間が維持と運営に携わっている。いちばん偉いのはゲストで、そのほかはただの舞台装置だという。
「サイコパス的な資質は、レコーディングスタジオにあるミキシングコンソールの調整つまみのようなものだと説明している学者がいる。すべてのつまみを最大にすれば、完成したサウンドトラックは使い物にならない。だが、そのサウンドトラックを項目別に評価すれば、いくつかの項目はほかのサウンドトラックよりも優れている。
【中略】
ゲストたちは、サイコパスであることを僥倖だと考えている。ミキシングコンソールを上手く調整している彼らは、サイコパスという気質のお陰で成功したと分析している。彼らは、サイコパスの中でも選ばれた上位1%だと自負し、スーパーリッチなサイコパスとして世の中に君臨している。そして、このキリングクラブに集うことで、調整つまみが振り切れないようにチューニングしているんだ。正確な統計ではないが、全サイコパスのうち、成功しているサイコパスが1%で、”危険地帯”の奴らも1%だ。残りの98%は、手の届く範囲の人間をコントロールしたり傷つけたりするだけで満足する凡才だ」P53〜54
サイコパスの中でも選ばれた上位1%だと自負し、スーパーリッチなサイコパスとして世の中に君臨している……その上位1%のサイコパスが集められ、秘密は徹底的に守られ、警察の人間すらも関与しているほどの大きい集団が「キリングクラブ」なのである。
そしてある日、ゲストである青柳という男性が殺害される。
「青柳は絶命していた。ただ、死因は刺し傷ではない。青柳は生きたまま開頭され、扁桃体(へんとうたい)を取り出されていた。警察は、猟奇殺人の仕業と考えているようだが、俺の意見は違う。扁桃体は、感情を掌(つかさど)る部位だ。それを選んで切除したということは、青柳がサイコパスだと知っていた可能性がある。一般的に、サイコパスは扁桃体の活動が低いことが明らかになっている。扁桃体は、道徳的な判断を助ける領域だ。恐怖心がなく、非常な判断を下せる人物を、世間ではサイコパスと定義している」P66
生きたまま開頭され、脳の一部を持っていく?あれ?倉井眉介氏の「怪物の木こり」と内容の一部がかぶっている?

キリングクラブの秘密が漏洩しているのか……ゲストであることを知っていて殺害されたのか……内部の人間の犯行なのか……内部犯の可能性があるなら解決しなければならない。
そして謎だらけの運営者が、容疑者を3人のゲストにしぼった。経営者、弁護士、脳外科医……この3人のゲストを容疑者として調査するために、運営に携わっている刑事とフリーライターの女性が動きだすのである。
第三章の弁護士の箇所では、サイコパス弁護士が登場し、女性を監禁して性的暴行をくわえた男を弁護する。勝つためならなんでもするという考え方に怒りを覚える読者がいるかもしれない。
そのような話がどうしてもダメな人にはおすすめできないが、帯に書かれている「伏線だらけのジェットコースター・ミステリー!」という文言は大げさではないので、かなりおすすめしたい作品である。
ほんとうに伏線だらけだった……。
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