黒川博行氏といえば、『疫病神シリーズ』が有名である。それと「後妻業」だろうか。
しかし黒川博行氏は、ほかにもおもしろい作品を数多く書いている。そのため、わたしが厳選した6作品を紹介したいと思う。
『悪果』は「堀内・伊達シリーズ」の1作目である。どちらも大阪府警今里署のマル暴担当刑事だが、クズなのである。クズばかりがでてくるコンゲームという感じだろうか。
『繚乱 (角川文庫)』
『果鋭 (幻冬舎文庫)』
順番は上記のとおりなので、『悪果』を読んでおもしろければ、ほかの2作品も手にとってみるといいだろう。
大阪府警今里署のマル暴担当刑事・堀内は、淇道会が賭場を開くという情報を拇み、開帳日当日、相棒の伊達らとともに現場に突入し、27名を現行犯逮捕した。取調べから明らかになった金の流れをネタに、業界誌編集長・坂辺を使って捕まった客を強請り始める。だが直後に坂辺が車にはねられ死亡。堀内の周辺には見知らぬヤクザがうろつき始める…。黒川博行のハードボイルドが結実した、警察小説の最高傑作。
(短編集)
収録作品に登場する博打の種類は、ブラックジャック、手本引き、麻雀、ルーレット、バカラ、パチンコである。
韓国のカジノ、賭場、雀荘、非合法カジノ、マレーシアのカジノ、パチンコホールを舞台にしている。主人公は勝ってばかりでなく、負けることもある。
しかし、勝ち負けよりも、そこに至るまでの過程を楽しむ作品である。題材となっているギャンブルを知っていたほうがよりおもしろく読めるかもしれないが、おおまかなルールは説明されているので、ギャンブルのルールがわからない人でも楽しめる。
主人公の心理だったり相手との駆け引きだったり、イカサマの仕掛けを見抜くことだったりを楽しむのである。そして笑わせてくれる。
スリリングでありテンポのよい展開は、ページをめくる手がとまらなくなるだろう。
作家の黒田は、雑誌編集者の知人からソウルへ博打をしに行かないかとの誘いを受ける。財布の紐を握る妻の雅子に軍資金の提供を願い出ると、監視役として自分もついていくと言い出して(「ぶらっくじゃっく」)。直木賞作家・黒川博行の真骨頂、ギャンブル小説の金字塔。
(短編集)
漫画の原画、彫刻、陶磁器、茶釜、掛け軸などの贋作詐欺を扱った作品である。素人を騙すのではなく、プロがプロを騙す。そのため、騙されたほうは最悪である。
素人であればただの消費者なので、警察に被害届を出すこともできるだろう。しかし、プロが騙されたとなれば、そうはいかない。贋作を買い取ってしまった人や店は、売ってしまう人や店ということになる。
買い取ったということが露見すれば、噂が広まり、廃業せざるをえなくなるだろう。プロ同士の騙し合いを楽しむ作品である。
古美術でひと儲けをたくらむ男たちの騙しあいに容赦はない。入札目録の図版さしかえ、水墨画を薄く剥いで二枚にする相剥本、ブロンズ彫像の分割線のチェック、あらゆる手段を用いて贋作づくりに励む男たちの姿は、ある種感動的ともいえる。はたして「茶釜」に狸の足は生えるのか?古美術ミステリーの傑作。
大阪府内の覚せい剤密売事件の捜査中に拳銃が発見された。それを契機にストーリーは急転する。
和歌山を中心として近畿一円に舞台は広がり、起点となった覚せい剤密売事件は置き去りになったのか……そう思わせておいて、ストーリの重要な部分が重なりあうのだ。
しっかりと話がつながっていく筋立ては圧巻である。
昇進の道が閉ざされても猟犬のごとく犯人を追う桐尾。薄毛で小肥り、映画オタクの上坂。大阪府警の万年一兵卒の刑事二人が覚醒剤密売捜査の最中、容疑者宅で想定外のブツを発見した。迷宮入りした十六年前の和歌山・南紀銀行副頭取射殺事件で使われた拳銃だ。二人は拳銃を調べる専従捜査に入り、射殺事件を担当していた和歌山県警の満井と出会う。
(短編集)
初期のころの作品である本書は、著者のデビュー作『二度のお別れ (角川文庫)』や『八号古墳に消えて (創元推理文庫)』でお馴染みの、大阪府警の黒マメコンビが活躍する作品を中心とした短編集である。
そして黒マメコンビとは、黒木憲造と亀田淳也のコンビで、大阪府警捜査一課の刑事である。この作品の魅力は、ふたりの漫才のような会話だろう。
亀田がホームズ、黒木がワトソン役である。会話のなかから事件解決の糸口をたぐり、漫才師のようなやりとりをするふたりに共感したくなる。そのような、とても魅力的な作品なのである。
中毒死事件で店を畳んだふぐ料理店。単純な食中毒かと思いきや、閉店前には立ち退かせ屋が姿を見せ、あとにできた店の支配人はつぶれた店の仲居だったことが判明。大阪府警捜査一課のふたりの刑事・黒マメコンビが巧妙に隠された真相を追う―(「てとろどときしん」)。タクシー強盗事件の意外な真実や電車内で見つかった切断された指の謎を、大阪弁の掛け合いで刑事たちが解き明かす。直木賞作家による警察小説の白眉。
(短編集)
本書は7つの短編が収録されている。いずれもスリリングなノワールが描かれた作品集である。ギャンブル、ヤクザ、風俗という裏社会での騙し合い。その攻防を描き、迫力のある物語が揃っている。
美人局のはずだった。だが、頭の弱い女が誘い込んだのはヤクザで、相棒の男が凄んでも脅しが効かない。逆ギレするヤクザ。女は消火器を振り下ろした。バラバラにした死体をいざ埋めようとするが…「左手首」。解体業者と組んで事故車で稼いでいた損保・車両鑑定人の悪どい手口…「解体」。一攫千金か奈落の底か、欲の皮の突っ張った奴らが放つ最後のキツイ一発!なにわ犯罪小説七篇。
黒川博行氏の最高傑作は、“疫病神シリーズ”2作目の『国境 上 疫病神シリーズ (文春文庫)』である。未読の人がいるならば、必ず読んだほうがいいだろう。『疫病神シリーズ』の順番は下記の記事に書いてあるので、よかったら参考にしていただければ幸いである。

そして、黒川氏の著書を手当たりしだい読むことをおすすめしたい。つまらない作品を見つけるほうがむずかしいと思う。
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