今回は、翔田寛氏の『黙秘犯』を紹介する。過去に傷害事件をおこした男が、今度は撲殺事件の容疑者に……。それに、海水浴場で起きた不審死と連続婦女暴行事件……4つの事件は関連しているのか……。
ということで、あらすじと感想を書いていく。
【目次】
- プロローグP5〜
- 第一章.夜道の凶行P8〜
- 第二章.被害者と加害者の顔P35〜
- 第三章.意外な事実P106〜
- 第四章.逮捕P218〜
- 第五章.唯一の証拠P233〜
- エピローグP278〜
香山は、頭の中で、事件経過を思い描いてみた。夜道で、若い男が若い女性を呼び止める。すると、女性は何かに気が付いたのだ。それは声を掛けた男側にとって、意外なことだったのかもしれない。そして、争いになった。犯人がワインのボトルを掴み、相手に殴り掛かる。それから、現場から慌てて逃げ去る。一人は若い男性で、もう一人は若い女性。それなのに、被害者は男性で、逃げ去る姿を目撃されたのも男性――これでは辻褄が合わない。P26
撲殺事件を目撃した主婦に、刑事の香山たちが証言を訊きにいったときの描写である。男性がふたり?そして女性がひとり?

これは三角関係がもつれたすえの殺人だ! そうだろ? ワトソン君?

ああ、そうだ
香山は、いかにも二十歳前後の男子大学生という感じの被害者の服装を思い描い浮かべた。それに比べれば、いまの証言から、逃げて行った男は、もっと年長のような印象を覚える。そんな両者に、いったいどんな接点があったのだろう。P27

中年男性が大学生ふうカップルの女性にストーカーしていた。大学生ふうの男が中年男性に文句を言ったところ、返り討ちにされた。つまり、そういうことだ。そうだろ? ワトソン君?

それだとおかしいんだ。なぜ、恋人を殺された女性は警察に通報しないんだ? つまり逆だ! ストーカーは大学生ふうの男、ストーカーされていた女性の恋人である中年男に成敗されたんだ!

でかした! ワトソン君! それが真相にちがいない!
目撃証言と凶器に残されていた指紋から、ある男にたどり着いた。倉田という人物で、民宿夕凪館の住込みの板前である。
そして、刑事たちは倉田の周辺を調べていくうちに、倉田が過去におこした傷害事件のことなどに違和感を覚えるのだった。犯罪とはほど遠い愚直で禁欲的であると、周辺人物たちが証言するからだ。
夕凪館の長男である友部雄二が溺死していたこと。それに、
「別の事件だと?」
「雄二の死の一か月ほど前から、船橋市と館山市内で起きた連続婦女暴行事件のことです」P94
犯人はふたり組の男で、ガムテープを使って目をふさぎ、両手もうしろ手にガムテープで縛るという手口だという。おなじような婦女暴行事件が3件起きているのだった。
- 倉田の過去の傷害事件
- 撲殺事件
- 雄二の溺死
- 連続婦女暴行事件
上記の4つはつながっているのか……倉田はどうして沈黙しつづけるのか……刑事たちはやっと真相に近づいてきたのに、上からの圧力がかかり……という物語である。
前半から後半にかけての大きな変化がないのはマイナスだ。善人はずっと善人だし、逆の悪人もずっと悪人である。小さな変化はあるが……。真相、犯人などの意外性がないところは欠点と言わざるをえない。
しかし、
- 勧善懲悪もの
- ストレートな警察小説
上のふたつを好む人には、『おすすめ度
』である。4つの事件がどのようにしてつながっていくのかを楽しんでちょうだい。夜の住宅街で大学生が撲殺された。目撃証言と凶器に残った指紋、傷害事件の前歴から、すぐに割り出された容疑者・倉田。だが、捜査に乗り出した船橋署の刑事らは、殺人とは縁遠い倉田の愚直で禁欲的な素顔に違和感を抱く。さらに、背後には海水浴場で起きた不審死と連続婦女暴行という、日時も場所も異なる2つの事件が複雑に絡み合っていることが判明する。そんな中、捜査本部に圧力がかかり…。
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