石川智健氏の『20 誤判対策室』は、ドラマ化された傑作の『60 誤判対策室 (講談社文庫)』のシリーズ2作目である。
「見破ってみせてください、私の完全犯罪を。」「簡単ですよ、完全犯罪なんて。」「7つの「20」が導く禁断の真実。ノンストップ・サスペンスの新定番‼」と帯に書かれた『20 誤判対策室』のあらすじと感想を書いていく。
【目次】
- プロローグP7〜
- 第一章.検察庁法第二十条P10〜
- 第二章.二十日P29〜
- 第三章.刑事訴訟法第二十条P98〜
- 第四章.20FPSP121〜
- 第五章.二十画素P143〜
- 第六章.二十号手当P194〜
- 終章.二十年P254〜
- エピローグP292〜
誤判対策室のメンバーは、
- 警視庁を定年退職したのち、定年再雇用という形で働いている有馬英治
- 検事の春名美鈴という女性
- 潮見和也(最難関大学の法学部を卒業し、司法試験の勉強をしていたが断念する。そのあとは民間企業の法務部で働いていた。法律の知識が十分にあることから、誤判対策室で働いている。)
上記の3名である。なかなかここで働きたいと思う人はいない。なぜなら誤判対策室の目的は、
誤判対策室は、すでに結審して判決が下された事件を蒸し返し、粗探しをする組織だ。要するに、検察庁や警察、裁判所などからも疎まれる存在であり、別に給料が高いわけでもなく、経歴に載せて得をすることはない。法曹界の全方位から嫌われることが運命づけられた組織に好んで入りたいという奇特な弁護士は現れなかった。P14
死刑確定囚の起こした事件、人を死亡させたことにより有罪が確定した服役囚の事件。このふたつの事件を再調査するため、法曹界の全方位を敵にすることになるのだ。
一方、ある男が自宅アパートの一室で殺害される。しかし、事件から7日ほど経過したある日、元裁判官の男が出頭して自白するのだった。凶器と証拠がなかったため、警察組織は犯人が名乗りでできたことに安堵していた。にもかかわらず逮捕から40時間ほどが経過したとき、元裁判官の男がすべての状況証拠を覆してしまい、有馬以外にはいっさい喋らないと主張するのである。
その結果、三ノ輪署から電話があった有馬は、元裁判官の紺野という男と対峙することになるのだ。
「……なにをしてほしいんだ」
「ゲームです」
虚を突かれた有馬は、その反応を恥じて顔を歪める。なにを言っているのか分からなかった。
「私を無事に起訴まで持ち込めれば、有馬さんの勝ち。そうなった場合、私は素直に刑に服します」
妙なことを提案した紺野を不審に思うが、当の本人にふざけている様子は微塵もない。
紺野は続ける。
「ただ、もし、起訴できなかった場合ですが」ここで一呼吸入れた。
「私は、有馬さんの娘さんをこの世から消します」
「……は?」P39
最長勾留期間である20日間のうちに、犯罪の証拠をつかんで起訴できなければ娘が殺害される……果たして元裁判官である紺野の目的とは……という物語である。
ハッピーエンドであるし、アンハッピーエンドでもある。だれの視点で読むかによってちがってくる。だれにでも、無条件に信じたい人がいると思う。代表的な関係であれば、自分の子どもだろうか。
無条件に信じていた人物が、まったく別の人間であると知ったときの絶望ははかり知れないだろう。ある登場人物の立場になって考えると、ほんとうに悲惨な結末である。
そしてテーマは、冤罪について……それと、裁くことができない悪をどのように裁くのか……というものだ。
法律という制度の中だからこそ、人が人を裁けるのだ。曖昧な基準に依る私刑では、滅茶苦茶になってしまう。
普通の人間が悪を裁くのは、良いことではない。
しかし、絶対に悪だとは言い切れなかった。裁くことができない悪人は存在する。そいつらを裁きたいと思ったのは、一度や二度ではなかった。もしそれが正当な裁きならば、その行為を悪と断ずるほど偽善者ではない。
有馬は、深く息を吐いた。P64〜65
上記の文章を読んだときのわたしは、デヴィッド・フィンチャー氏が監督の『セブン』という映画のラストを思いうかべてしまった。有名なので知っている人は多いことだろう。
あのラストがちがった場合、日本でいう刑法39条が適用されて無罪……究極の2択である。あのラストだからこそ、胸糞が悪くならずにすんだのだ。
「心神喪失者の行為は罰しない」というのは、クソみたいな法律である。遺族は絶望だ。そのため、わたしは刑法39条を廃止にしてほしいと思っている。
そして『20 誤判対策室』という作品は、ミステリー好きであれば、「絶対に読むべし」である。
老刑事・有馬は、刑事と弁護士、検察官の3名から成る「誤判対策室」に配属された。無罪を訴える死刑囚を再調査する新組織だ。半年後、有馬は小料理屋の客が殺人を仄めかしていたという情報を入手。該当する3人殺害事件の冤罪を疑い動き出す。自身が関わった冤罪事件への贖罪の気持ちから…。傑作法廷ミステリー!
警視庁を定年退職後、「誤判対策室」―刑事、検事、弁護士からなる冤罪調査組織―に再雇用された有馬英治あてに一本の電話が入る。台東区三ノ輪で殺人を犯し、自首してきた紺野真司が証言を一変。容疑を否認し、有馬にしか真実を話さないと主張しているという。勾留中の紺野と対面した有馬は、ひとつのゲームを持ちかけられる。「私の犯罪を証明し、起訴できなければ、あなたの娘を殺害します」動揺を隠せない有馬だったが、悲劇へのカウントダウンはすでに始まっていた―。
コメント