犬塚理人氏の『人間狩り』の帯には、「有栖川有栖氏推薦!」と書かれている。ほかにも「私刑を下そうとする〈自警団〉――」という文言があり、それらをを見たわたしは、迷わずに購入したのだ。
そして内容である。14歳の少年が少女を殺害し、眼球を少女の親に送りつけた。それは20年まえの事件だった。その犯行映像がダークウェブのオークションに出品され、警察組織が映像の真偽をたしかめるために150万円で落札した。
本物だったことがわかり、どのようにして流出したのかを追うことになる。
当時、家宅捜索をおこなっているため、少年が撮影していたものは警察によって押収されている。
流出した原因として考えられるのは、事件を捜査していた警察の人間がコピーしたのか、検察の関係者がコピーしたのか、それとも少年がコピーしたものを隠していたため、押収されなかったものがあるのか……。
しかし、元少年ではないことが濃厚になる。落札すると同時に、発送することを想定して元少年を見張っていたからである。
そして、検察の関係者でもないことが濃厚にった結果、残った警察関係者が疑わしいことになり、監察係の白石が捜査を開始するのだ。
上記の物語と並行して、江梨子を中心とした物語がすすむのである。
カード会社で督促の仕事をする江梨子のところに、1本のクレーム電話があった。クレジットカードが使用できなくなったというもので、強制解約されていることを伝えた。
だが、カードが使用できないと、「娘の給食費を支払うことができなくなる」と怒り狂うのだ。ただのOLなのでどうにもできないということを伝え、その電話は終わったのだが……。
後日、おなじ男から電話があった。給食費を支払えなくなった結果、娘はいじめられるようになった。そして、そのいじめが原因となり、娘は自殺してしまったので責任をとれ。そう言われるのである。
そこで、ほんとうに娘を自殺に追いこんでしまったのか、江梨子は独自に調査しはじめる。その結果、クレーム男が違法行為に手を染めていて、それでえた金を使い、未成年買春をしていることを知る。
違法行為と買春行為の現場を、江梨子はスマートフォンで動画を撮影していた。
しかし警察に通報すれば、すべての経緯を説明することになる。
顧客の個人情報を許可なく使用して調査したことや、隠し撮りしたことが露見したらマズい。そう思った江梨子は、動画を加工して動画サイトにアップしたのち、そのURLを自警団サイトに書きこむのである。
自警団サイトでも有名である、龍馬という少年がいた。書きこまれたことを調査して、カメラを片手に悪事に手を染める人間に接触するという活動をしている。
のちに龍馬と江梨子は出会うことになり、江梨子が書きこんだことを嬉々として伝えると、下記のように言われるのだ。
「言っちゃ悪いけど、あんた卑怯だよね」
「えっ?」
「だってさ、あんた、あの宇津木っておっさんの名前も顔も伏せて投稿したじゃん。あれって名誉毀損で訴えられることを心配したんだよね? そうして本名を伏せてイニシャルだけネットにあげて、他のネット住民が実名をさらしてくれるのを期待してたでしょ。つまり自分は安全圏にいて、他の人に危ない仕事をやらせたわけじゃん。それってなんかずるいよね」
反論できなかった。龍馬の言う通りだった。
「人をネットでさらそうって言うのならさ、やっぱりそれなりの覚悟と責任を持ってやるべきじゃないかな」
P189〜190
龍馬のセリフが正論すぎる。江梨子みたいに安全圏から石を投げつける人がいる。そういう人は、安全圏から引きずり出されて自分が投げた石で頭をぶん殴られる。それくらいのことは覚悟したほうがいいだろう。
なにかを得たいならリスクを背負うのは当然である。メリットだけを得てデメリットを受け入れないのは筋が通らない。
- 少年法について
- 私刑の是非
- 正義とは
これらが題材である。聞いたことがあるようなものを詰めこんだ感は否めないが、楽しめる作品だと思う。
そして、『心にナイフをしのばせて (文春文庫)』を先に読んでおくと、楽しめるはずである。
『心にナイフをしのばせて』は、下記の記事の「5」で紹介している。

私が大好きな本である『ゲーテ格言集 (新潮文庫)』より、この記事に関連したゲーテ先輩の格言を4つ紹介して締めくくろうと思う。
人間がほんとに悪くなると、人を傷つけて喜ぶこと以外に興味を持たなくなる。P28
寛大になるには、年をとりさえすればいい。どんな過ちを見ても、自分の犯しかねなかったものばかりだ。P46
不正なことが、不正な方法で除かれるよりは、不正がおこなわれているほうがまだいい。P163
よい人間は暗黒な衝動にかられても、正しい道を忘れはしない。P177
ほかにもためになる格言がたくさんあるので、未読の方は手にとってみるといいかもしれない。
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