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『ノワールをまとう女』-第65回江戸川乱歩賞受賞作-デモを鎮めることはできるのか?

神護かずみ氏の『ノワールをまとう女』という本国内ミステリー
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第65回江戸川乱歩賞を受賞した、神護かずみ氏の『ノワールをまとう女』を紹介する。

今年は候補作に共通する欠点が多かったことが特徴でした。まず、物語の立ち上がりが遅い。
『中略』
殺人事件が起きた、盗作が疑われる、といった謎だけでは、誰かがやったんだろうとしか読者は思わないので、魅力的な謎とは言えません。
P313(貫井徳郎氏の選評を抜粋)

それに、社会問題を扱っていることが共通しているが、取材と考察が不足しているため、明らかな認識間違いが目立つようである。

そうした諸問題から唯一免れていたのが、受賞作となった『NOIRを纏う彼女』でした。P314(貫井徳郎氏の選評を抜粋)

ということで、あらすじと感想を書いていく。

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発端はひと月前の四月十三日。五十歳前後のスーツ姿の男が力強く語りかける映像が、投稿動画サイトユーチューブに上がった。時にカメラ目線で、身ぶり手ぶりを交え熱く語る男の言語は韓国語。日本人の多くが意味を理解できないはずだが、映像にはご丁寧に日本語の字幕が添えられていた。P12

韓国人の男性が日本を批判している映像なのだった。撮影されたのは2010年で、韓国第4位のトイレタリーメーカー螺鈿ナザン株式会社の社長だった人物が発言者である。この発言の三年後、発言者の韓国男性は日本企業である美国びこく堂の常務執行役員に収まっているのだ。

反日を声高に叫んでいた者が日本大手メーカーの役員に就任しているとなれば、一般的な日本人でも面白いことではないだろうし、まして保守活動派が許容できるものではないだろう。P13

デモ

そして、動画を投稿したのは「美国堂をただす会」である。映像のアクセス数は10万回を超え、美国堂製品の不買運動を熱心に呼びかけているのだという。それに、美国堂本社のまえでデモをやるのだった。

一方、原田という人物から電話があり、主人公の西澤奈美が動きだすことになる。

原田とのつきあいはかれこれ十五年になる。組織ではあるようだが法人ではない。つまりわたしは世間一般にいう社員ではない。社名もなければネットにわずかな情報もなく、原田が請け負う仕事の全容を、私は知らない。
『中略』
わずかに知る彼の過去を披露するなら、出は総会屋だ。現在は聞かれなくなった言葉だが、戦後、わずかな株式の所有をもって株主の権利を濫用らんようし、企業から金品を受け取る者や組織が存在した。P31

原田は伝説の総会屋に師事していたが、1981年の商法改正をきっかけに総会屋を足抜けしたのだった。

消防士が火を消している

そして奈美が命じられたのは、「美国堂を糺す会」の活動の沈静化である。奈美はどのような火消し行為をやるのか……その結果は……という物語なのである。

多数の人がそれなりに楽しめる作品だろう。大きな欠点はないものの、なにか物足りなさを感じるのは否めないのである。

この主人公が男だったらステレオタイプだって指摘も、そのとおり。P310(新井素子氏の選評より)

最終候補作はいずれも題材やテーマの着眼点は悪くないのに、料理の仕方・盛り付け方に難があるという共通の弱点を感じました。
『中略』
逆に受賞作の『NOIRを纏う彼女』を私は推せませんでした。
『中略』
裏社会を舞台とするならば、もっと人間の暗黒面に踏み込む覚悟が必要でしょう。P312(月村了衛氏の選評より)

意外性やどんでん返しがほしいところですが、残念ながらそれは叶えられません。しかし、そこが欠点になっておらず、あまり面白さが損なわれていないのが不思議なところでした。P314(貫井徳郎氏の選評より)

上記3名の選評をまとめると、男だったらステレオタイプ、暗黒面に踏み込む覚悟、意外性やどんでん返しがほしい、ということである。3つのうちのひとつが改善されていたら、もっとおもしろく読めただろう。

ほとんどの人が『2.0』〜『4.0』くらいの評価をするような作品である。

それでも、ここ10年の乱歩賞受賞作のなかでは、上位に入るほどの作品だと思う。そのため一読の価値はあるだろう。『ノワールをまとう女』をぜひ手にとってほしい。

大手医薬品メーカーに仕掛けられたデモを鎮めるべく市民団体に潜入した西澤奈美。そこでリーダーから同志として紹介されたのは、恋人の雪江だった。新ヒロイン誕生!江戸川乱歩賞受賞作。

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