今回は、大沢在昌氏の「新宿鮫シリーズ」だけを読んだ人や、大沢在昌氏のことをなにかで知ったが、どの作品を手にしたらいいのかわならない人に向けて書いたのである。
大沢在昌氏の代表作である「新宿鮫シリーズ」は、2018年10月の時点で11作(1作は短編集)あるため、
- 「新宿鮫シリーズ」は作品数が多すぎて、最初に「新宿鮫シリーズ」に手をだしづらい。
- 上記に該当し、大沢在昌氏の作風を知るために、試金石となる作品を見つけたい。
- 「新宿鮫シリーズ」だけは読んだが、ほかのおもしろい作品を知りたい。
上記のような人たちをターゲットにして記事を書いたので、すこしでも参考になればうれしいのである。
タイトルがいい。食指が動く。ハードボイルドが好きであれば楽しめるだろう。
政府機関の優秀な諜報員でありながら、裏切り者のレッテルを貼られ、組織を追われた男・加賀哲。高級クラブの経営者として静かな人生を送っていた彼のもとに、助けを求める声が録音された一本のカセットテープが届いた。声の主は共に組織を追われた同僚・牧野。そして自身も何者かに襲われた。牧野のもとへ向かう加賀の胸に、過去の苦い事件が蘇る…。ベストセラー作家の処女長篇。
「狩人シリーズ」の2作目。大沢氏の作品をある程度読んだあとに「砂の狩人」を読むと、効果は絶大である。このような結末に至るとは予想していなかった……。
『北の狩人〈上〉 (幻冬舎文庫)』
『砂の狩人 (上) (幻冬舎文庫)』
『黒の狩人(上) (幻冬舎文庫)』
『雨の狩人(上) (幻冬舎文庫)』
順番とおすすめ度は上記のとおりなので、参考にしていただければ幸いである。
新宿に北の国から謎の男が現れる。獣のような野性的な肉体は、特別な訓練を積んだことを物語っていた。男は歌舞伎町で十年以上も前に潰れた暴力団のことを聞き回る。一体何を企んでいるというのか。不穏な気配を感じた新宿署の刑事・佐江は、その男をマークするのだが…。新宿にもう一人のヒーローを誕生させた会心のハードボイルド長編小説。
「天使の牙(上) (角川文庫)」はふつうの作品だが、2作目の「天使の爪」は傑作である。フリの「天使の牙」があるからこそ、「天使の爪」が傑作となる。
脳移植によって生まれた麻薬取締官・神崎アスカは、美しくも脆弱なマフィアの女の肉体と、元女刑事の強靱な精神を併せ持つ。ある日突然、麻薬取締部が襲撃される。ロングコートだけをまとい、乗り込んできた全裸の女は、一人を射殺し、犯罪者の引き渡しを要求して立てこもる。交渉人に指名されたアスカは、かつての同僚で恋人の古芳とコンビを組み、無事、人質を救出。だがそれは、壮絶な闘いの幕開けにすぎなかった…。
本作は「佐久間シリーズ」の長編小説で、第19回日本冒険小説協会大賞(日本長編部門)を受賞した作品だ。
麻薬中毒患者の更正施設で働いていた佐久間は、失踪した漫画家の捜索をしてほしいという依頼をうける。それと施設の少年が、東京の「飼い主様」にあうために施設を脱走してしまう。
- 少年を精神的に支配しているという謎の女性
- ヤミで売買される漫画の原画
- 人気絶頂の果てに消えていった漫画家の行方
- 麻薬ビジネス
上記の4つの謎がつめこまれている。
そして、漫画家と少年を捜索するという内容であり、麻薬ビジネスのこともリンクして物語が展開する。
「佐久間シリーズの長編」の順番とおすすめ度は下記のとおりである。
『標的走路 レスリーへの伝言 (ジュリアーノぶんげい)』
『追跡者の血統 (角川文庫)』
『雪蛍 (講談社ノベルス)』
『心では重すぎる 上 文春文庫』
心に比べれば、体なんて軽いものさ 失踪した人気漫画家の行方を追う探偵・佐久間公の前に、謎の女子高生が立ちはだかる。渋谷を舞台に現代を描ききった渾身の長篇
2002年版のこのミスで6位、2001年の文春ベスト10で7位を獲得した作品である。
犯罪者を逃がすことを生業にしている「逃がし屋」の主人公が、過去の冤罪をネタに脅迫され、公安警察に人捜しを強要される。
その人間は某国の重要人物であり、関西の同業者が所在を隠しているのだった。独裁国の後継者争い、同業者、警察、某国のスパイ組織、在日の某国組織、ヤクザ、それらが複雑に絡み合う。そのような内容である。
やばい「客」を追手の手が届かない闇の先に逃がす―それが「逃がし屋」葛原の仕事だ。「極秘入国した隣国の最重要人物を捕えて逃がせ」。依頼はよりによって警察庁幹部からだった。断れば殺人犯として追われる。大阪に向かった葛原を待ち受けるのは、暗殺を狙う隣国の工作員たち。壮絶なチェイスが始まった。
新宿鮫シリーズの原点となった作品である。そのため、新宿鮫シリーズを読んだことがない人にとっては、この作品が新宿鮫シリーズを読むのかを判断するための指針となるかもしれない。
まあ、新宿鮫シリーズを最初から順番どおりに3作ほど読めば、どっぷりハマってしまうと思うが……。
私立探偵・緒方洸三が調査する先で、次々と関わった若者たちが殺害されていく。最も弱い部分を突かれ非業の死を迎える彼らは、やくざすら自在に操る冷血漢に支配されていた。緒方は六本木の街でひとり、暗黒に心を支配された男と対峙し、正体に迫る―。『新宿鮫』へとつながる大沢ハードボイルドの原点。
孫を殺された富豪の依頼をうけ、秘密組織をクビになった殺し屋がテロリストを狙う。
すこし古くさく感じる描写があるかもしれないが、それでも楽しめる作品だろう。
かつて極秘機関に属し、国家の指令で人間を“消して”いた加瀬。ある任務が原因で組織を離脱し、監視を受けながら暮らしている。そこに、強大な権力をもつ大富豪、出雲グループ総帥から個人的な依頼が来た。標的は総帥の孫を殺した冷酷非情なテロリスト、成毛泰男。報酬は金と国家からの「解放」。加瀬は過去、そして自分と向き合いながら、最後の闘いに身を投じる。緊張感に目が離せない、ハードボイルド・サスペンス!
偽装結婚をさせられた女性は記憶喪失だった。その身元をひきうけた元刑事が、トラブルに巻き込まれていく。
テンポのいい作品なので読みやすく、おすすめできる作品である。
「カネもなければ、オンナもいない」元刑事の甲賀は40歳の寂しい年の瀬を迎えていた。そこへ「奥さんを保護した」と警察からの連絡。この「妻」は甲賀が“偽装結婚”した中国人女性で、記憶を失っていた。彼女が何者か二人で調べていくと事態はとんでもない方向に。読み始めたら止まらないエンターテインメント。
大沢在昌氏の筆力を思い知らされる作品である。大沢氏の作品をはじめて読む人に、わたしはこの作品をおすすめしている。まちがいなく傑作なのである。
そして、「軍艦島」に興味がある人は、より楽しむことができるだろう。
わずかな土地に五千人以上が暮らす、通称「軍艦島」と呼ばれる炭鉱の島で、昭和三十四年、少女の遺体が見つかった。島に赴任したばかりの警察官・荒巻は少女の事故死を疑い、独自に捜査を開始。島の掟を前に、捜査は難航するが、予期せぬ人物の協力によって、有力な証拠にたどりつく―。吉川英治文学賞受賞作。
上記の9作品はどれも傑作である。未読の作品があれば、ぜひ読んでいただけたらありがたい。
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