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【らんちう】第一回大藪春彦新人賞を受賞した赤松利市氏の犯罪小説

赤松利市のらんちうという本国内ミステリー
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「らんちう」の目次は下記のとおりである。

【目次】
  • 第一章.犯行/従業員たちの衝動P5〜
  • 第二章.取調/容疑者たちの憂鬱P29〜
  • 第三章.供述/参考人たちの困惑P261〜
  • 終章.覚醒/受刑者たちの明日P339〜

6人の男女が協力して旅館の総支配人を殺害した。そのうちのひとりが警察に通報するところから物語がはじまる。そして殺人事件の前後のことが、6人の一人称視点で語られていく。

2章では、警察の取調というかたちで年金制度や貧困などの社会問題をおりまぜつつ、いかに殺されても仕方がない人物だったのか、それらが語られる。旅館の特別室を勝手に住居にしたりセントラルキッチン方式を導入したり、給料の高い古株社員をリストラしたりして、あらゆる人に迷惑をかけていたのだった。女性フロント契約社員の箇所では、

「凄い時計ですね」
お愛想で言ってやりました。
確かに凄かったです。いろんな意味で。
厳つい時計を三つも腕にしているんです。
頭、壊れてんじゃないのって思いました。
P110〜111

三つの時計はすべてロレックスだという。頼んでもいないのに、それをひとつずつ自慢げに解説するのだ。実際にこんな人がいたら、笑いをこらえることができないだろう。わたしだったら、「ちんどん屋ですか?」と言ってしまう。

そして、従業員に義務づけられていたのは自己啓発セミナーを受講することで、6人のうち5人がそれに感銘を受けたのだという。いままでの自分をかえることができ、すばらしいセミナーなのだとか。

5日間あるセミナーの4日目は、午前中のランニングを終えて「人生にとって大切なもの」を全員で考えるという時間になる。

「大切なものはなに?」と塾長が受講生たちに質問を投げかけ、「家族」や「友人」と答えていくと、塾長はホワイトボードにそれらを書いていく。その結果、「家庭」「仕事」「友人」「趣味」「お金」という5つのグループができあがる。

そして、「家族を養うためには」「趣味を楽しむためには」「友達を大切にするためには」の質問の答えは、「必要なのはお金」ということになり、そのお金を稼ぐには仕事をやることである。そのため、もっとも大切なものは「仕事」なのだという結果となり、

「こうやって見ると、ここにいる全員が仕事がいちばん大事だと思っているようだね。仕事が辛いとか、嫌だとか、辞めたいとか口にする人がいるけど、みんなにとって仕事が一番大事なものなら言わせて貰うよ」
わたしたちは息を詰めて塾長の言葉を待ちます。
「その仕事をやろうと決めたのは、君たち自身じゃないのかな。だったらそれは自己責任だよね。誰かに強制されて、今の仕事をやっているわけじゃない。自分で選んだ仕事だ。自己責任なんだよ。それが人生にとって一番大事なものだと思うのなら、辛いとか嫌だとか辞めたいと思う前に、そんな自分を変えて、頑張ってみようと思えば人生は、もっと輝くとぼくは思うんだけど、どうかな」
全員が大きく頷きます。何人かは、わたしもそうでしたけど、目を潤ませています。
P161

塾長がアホなのか、それとも塾長の詭弁に丸め込まれた受講生たちがアホなのか……。

それから6人の男女が語り終えて3章になると、旅館の元従業員や自己啓発セミナーの塾長と講師、総支配人の妻が参考人として語っていく。このような内容である。

人物の外見や場面などの描写はほとんどなく、2章から終章のさいごまで10人ほどの人物がひとりひとり語っていく構成なので、映像に適した作品ではない。思想、支配人の悪口、社会への不満などの演説をラジオで聞いているような感じである。それに、地の文で口語調+関西弁の箇所があるため、読みづらいと感じるかもしれない。

テーマというか、この作品が伝えたいことを書いてしまうと……察しのいい人は気づく可能性がある。そのような人が未読とはかぎらないので書かないでおく。

しかし、読了して真相を知ったとしても、それほどおどろくことはない。そこに重きをおいた作品ではなく、人間の内側を描いた良書なのである。

「犯人はここにいる全員です」――リゾート旅館の総支配人が惨殺され、
従業員6人が自首した。だが、彼らの供述には「あやふやな殺意」しかなく、
なぜ被害者が殺されたのかわからない。
経営再建を担うキモデブ総支配人、完全違法な長時間労働、自己啓発セミナー、
従業員が慕う妖艶な美人女将……容疑者達の供述からは予想外の事実が浮かび上がってきた。
第一回大藪春彦新人賞を受賞した奇才が放つ衝撃の犯罪小説

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