今回は、『そして誰も死ななかった』を紹介する。ミステリー好きであれば、タイトルを見ただけで手にとりたくなってしまうことだろう。
ということで、あらすじと感想を書いていく。
『そして誰も死ななかった』の【目次】
- 発端P8〜
- 招待P57〜
- 惨劇(一)P117〜
- 惨劇(二)P143〜
- 惨劇(三)P186〜
- 惨劇(四)P218〜
- 惨劇(五)P245〜
- 顛末P267〜
「――原稿はどうですか?」
携帯電話の通話ボタンを押すと、賀茂川書店の茂木の声が聞こえてきた。
大亦牛男はジビエ料理屋を自称する安居酒屋「べろべえろ」で、鴉のささみと蟇蛙の刺身をつまみに生ぬるいビールを飲みながら、普通の居酒屋だと勘違いして入店した女子大生二人組の顔から血の気が引いていくのを眺めているところだった。P8
上記は本書の冒頭である。推理作家ばかりを担当している腕利きの編集者である茂木が、牛男に新作を書いてほしいという。だが、牛男は断るのだった。
牛男のペンネームは大亦牛汁である。牛男にはある秘密があるため、書きたくても書くことができないのだ。
断ったにもかかわらず、ほかにも用事があると言われるのだった。摩訶大学の秋山教授という人物が、『奔拇島の悲劇』の作者と話したいといって編集部に連絡してきたのだという。
書きたくても書けない秘密が露見してしまうのかと怯えながら、牛男は茂木といっしょに摩訶大学に行ったのだ。
教授にいろいろなことを訊かれたが、無事に大学から帰ることができた。そしてそのあと、摩訶大学の女子大生から電話があり、「大亦先生の大ファンです。名刺を拾って電話をしちゃいました。お食事でも」と言われ、牛男は女子大生に誘われたことで有頂天なのである。
その女子大生に誘われたよろこびをだれかに伝えたくて、何人かの知人や友人に電話をかけたのだ。すると、
「女子大生ってことは確かだ。あとはどうだっていいだろ」
「編集の人に聞いた噂なんだけど、推理作家を狙う変な女性ファンがいるらしくて」
変な女性ファン?なんだそいつは。
「分かった。映画で見たぜ。作家を監禁して思い通りの話を書かせるんだろ」
「ちょっと違うかな。その人はファンの振りをしていろんな推理作家に近づいて、肉体関係を持ちたがるんだって。美人局とかじゃなくて、単純にたくさんの作家と寝るのが目的らしいんだけど」
「骨のあるビッチってことか」P31〜32
そして、牛男は女子大生と肉体関係を持ち……その9年後、20周年パーティーの招待状が届くのだった。差出人は、天城菖蒲という覆面作家で、絶海の孤島である条島に建つ天城館に招待するという。
「無人島ですよ。西之島から南西に二十キロですから、道楽で住むような島じゃありません。東京湾から父島経由で二十八時間、チャーター船で直行しても丸一日かかります」P74
男性4人と女性ひとりの合計5人は、クルーザーに乗って絶海の孤島に向かうのだ。
島につくと、5人以外はだれもいないのである。招待した天城もいない。
テーブルクロスの上に、泥の塊が五つ並んでいた。表面に串で刺したような穴が空いている。顔の溶けた埴輪みたいな、できの悪い泥人形だった。
「人形が五つ。これって五人が順番に殺されるやつじゃないですか」P97〜98

ミステリー好きならこの設定に興奮するよな……だろ? ワトソン君?

ああ、そのとおりだ
5人は次々と殺害されていくのだろうか……という物語である。
白井智之氏といえば、グロい描写が多々あることが特徴のひとつだろう。『そして誰も死ななかった』は、複数の過去の作品と比較したとき、グロさはかなり控えめになっている。そのため、グロいのが苦手な人にもおすすめしたい作品である。
しかし、まったくグロい箇所がないわけではないので、すこしの覚悟が必要だろう。
わたしは楽しませてもらったし、大笑いさせてもらったのである。
「なんですか。カルビ?」
「○○の○だよ」
肋が子どもみたいな悲鳴を上げた。P154
上記のところでわたしは腹を抱えて笑ってしまったのだ。牛男が人間の身体の一部をポケットからだして肋という人物に見せたときの描写であり、○の箇所はわたしが伏字にしている。
ポケットからカルビをだすわけがないのである。それを想像したら、腹を抱えて笑ってしまったのだ。それにしてもカルビって……。
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