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『刺青強奪人』サイコパスミステリーの快作!おもしろさは抜群!

4.5
アリソン・ベルシャム氏の刺青強奪人という本海外ミステリー
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国際犯罪小説ブラッディ・スコットランドの勝者が紡ぐ人皮偏執のサイコミステリー」と帯に書かれた『刺青強奪人』は、アリソン・ベルシャム氏のデビュー作である。

ミステリー好きであればタイトルを見ただけで、「これはおもしろいはずだ」と叫ぶことだろう。刺青を強奪する人……ふつうなら強奪できない刺青を強奪するとは、とても魅力的なのである。

ということで、あらすじと感想を書いていく。

タトゥーを入れた男を蛙が睨んでいる

冒頭は犯人の“わたし”が、ある男を公園の茂みに引きずりこんで犯行におよぶところが描かれる。そして最初の犯人視点の描写は、このように締めくくられるのだ。

ついにこの瞬間が到来した。片方の手で皮膚をしっかりと伸ばし、最初の切れ目を入れる。肩から肩甲骨のとがった先に向け、絵柄の輪郭に沿ってすばやく刃を引く。刃が通った後に赤いリボンが浮かび上がった。指にからみつくそれは、温かい。刃先が道を切り開きながら進んだ。息をひそめる。背筋がぞくりと震え、血液が下半身に押し寄せて沸き立った。
この作業が終わるまでに、男は息絶えるだろう。
こいつは最初の一人ではない。最後でもない。P9(上巻)

こいつは最初の一人ではない。最後でもない。

連続殺人ははじまっていて、これからもつづくのだ。「つかみ」がすばらしいのである。

そして殺害された男の遺体を発見してしまうのは、マーニーという女性だ。夫とは離婚し、18歳の息子とふたり暮らし、仕事はタトゥーアーティストである。

オープンカフェでコーヒーとマフィンを購入して食べたあと、そのゴミを捨てようとしたとき、

ゴミ箱が並ぶところで蛙が何かを見つける

カフェの奥の隅に緑色のプラスチックの大型ごみ容器がある。フットペダルを踏んで蓋を開け、紙のカップを放りこんだとき、すさまじい悪臭が襲いかかってきた。P17(上巻)

マーニーが通報し、事件が露見する。それから通報をうけて事件を追うのは、明日から警部補になるフランシス・サリヴァンである。

この大抜擢により、ニ十九歳のフランシス・サリヴァンは、サセックス警察最年少の警部補になる。中等学校の初登校日よりよほど緊張していた。P18

蛙が教会でお祈り

フランシスが教会でお祈りをしていると、

スラックスのポケットに振動を感じ、あわてて携帯電話を引き出したが間に合わず、着信音が鳴り出してしまった。教会の静寂を切り裂く電子音は、たった一度鳴っただけなのに、ふだんより長くやかましく聞こえた。何人かがこちらを振り返り、女性の一人は腹立たしげにしーっとささやいた。フランシスはあたふたと電話をミュートにし、ウィリアム神父のほうをうかがった。
それから後ろめたい思いで顔を伏せ、届いたばかりのメッセージにこっそり目を通した。
マカイ巡査部長からだった。
一日前倒しで始動。死体発見の通報あり。現場はパビリオン・ガーデンズ。P21(上巻)

一日前倒しで始動することになったフランシスは、警部補になってはじめての事件を解決することができるのか……物証なし、目撃者なし、被疑者なしの、難解な事件の結末は?……犯人であるサイコパスはなんのために犯行を重ねるのか……という物語である。

フランシスの上司はムチャぶりが多くてひどい人間だ。それに、フランシスの副官である先輩刑事のローリー・マカイ巡査部長は、フランシスとともに捜査をするが、性格が悪すぎる。そのような登場人物たちの個性があふれているので楽しめるだろう。

そして著者のアリソン・ベルシャム氏は、日本のことが好きなのだろうか。作品のところどころに日本のことがでてくるのである。たとえば、

ナイフはどれも、一財産使って日本から取り寄せたものだ。それだけの価値はある。サムライの刀を作るのと同じ技法で作られている。鍛えた硬い鉄の刃は、まるでバターを刻むように、すばやく正確に切ることができる。P8(上巻)

犯人の使用する凶器はどれも日本製だったり、イシカワ・イワオというタトゥーアーティストの日本人が登場したり、

「日本ではそういうことがあります」イワオは言った。「しかし、やり方は違います。イレズミのある人物、たいがいはいわゆるヤクザですが……」
「イレズミ?」フランシスは尋ねた。
「全身に入れる柄の大きな彫り物のことです。ヤクザが死んだとき、遺言に従って刺青を体から剥がし、保存することがあります。横浜の文身歴史資料館にいくつか展示されています。たしか東京大学にもコレクションがあるはずです」P163(上巻)

と、日本のことにふれているので、日本人としてはうれしいことである。

『刺青強奪人』は、スリリングな展開、魅力的な登場人物たち、複数回のどんでん返し……最高におもしろい!

本書の欠点はタイトルを見れば想像できるとおりすこしグロいところだが、それほどグロいというわけではない。

そのため海外ミステリーが苦手な人や読まない人にも、ぜひ読んでほしい作品である。登場人物は10人程度と少ないのでわかりやすい。そして絶対に楽しめるはずだ!それと、

この『刺青強奪人』は、マーニーとフランシスを主人公とするシリーズの第一作と位置づけられており、続編の“Her Last Breath”がニ〇一九年九月に刊行される予定。ブライトンで若い女性を狙った連続殺人事件が発生、容疑者としてマーニーの息子アレックスの名が挙がって……という、とても気がかりなストーリー展開になっているとのこと。さらに、著者はすでに第三作の執筆にも取りかかっているといい、これからの活躍がいまから楽しみだ。P286〜287(訳者あとがきより)

上記のとおり続編が刊行されるようなので、楽しみのシリーズが増えてうれしいことである。

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