今日は令和元年の1日目である。そうはいってもいつもとかわらないわたしは、平常運転でいつものように書籍を紹介する。
喫茶店で男性編集者に辛辣な言葉を浴びせられているところから物語がはじまる。主人公は30歳すぎの男性である。『三葉社本格ミステリー大賞』という公募の文学新人賞を受賞し、本名を名乗って作家デビューした。
それから4年が経過した現在までに作品を5作発表したが、増刷されたのはデビュー作だけで、それ以降はすべて初版止まりだった。そのため、辛辣な言葉を浴びせられているのである。
そして口論になった結果、主人公は喫茶店を飛びだす。だが歩道にでた直後、追いかけてきた男性編集者に肩をつかまれるのだ。
腹を立てていた主人公は、振り向きざまに男性編集者を両手で突き飛ばした。歩道に仰向けにひっくり返った男性編集者に捨て台詞を吐き、その場を立ち去ってしまい……。
あたりどころが悪かったのか、男性編集者は死亡……そして主人公の逃亡生活がはじまる。
たどり着いたのは茨城県だった。所持金が643円しかないので、食事をとることができない。そのため、農具小屋に身を隠すことに決めた主人公の賢(けん)が考えたのは、
ただ、この小屋も今は使われていないようだが、前の道を人が通ることはあるかもしれない。賢はそれを警戒して、小屋の後ろの林に入った。林の手前の方には空き缶などのゴミが落ちていたが、下草を分け入って奥に進めばゴミも見当たらず、人が通った形跡もなかった。賢は林の中に身を隠し、日が暮れてから畑の作物や民家の柿を盗もうと決めた。P28
しかし、そんな生活を長くつづけることはできないのである。
間違いなく、体全体が衰弱の一途をたどっていた。
頭の中には、漢字一文字が、徐々に濃度を増して浮き上がっていた。
「死」――もう、死ぬしかないのだろう。
このまま体が衰えていけば、野垂れ死には間違いない。「野垂れ死に」と慣用表現で使うことはあっても、現代の日本で、本当にこうして野に垂れて死ぬ人間は珍しいだろう。仮に一時的に持ち直したとしても、この先ますます寒くなる。この農具小屋で冬を越せるわけがないし、冬になれば畑の作物も消える。賢が一週間なんとか生きながらえたのは、実りの秋だったからだ。P40
そして自殺を決意し、死に場所をさがすのだった。道路に飛びだしてトラックに轢かれようか……そのように考えたが、他人を巻きこみたくない。その結果、最終的には、橋から湖に飛びおりて死ぬことにしたのだ。人けがなくなる夜を待ち決行する、と……。
よし、行こう。賢は軽やかな気持ちで橋の上に登った。あとは橋の真ん中まで歩いてダイブするだけだ。寒さと苦しさはあるだろうが、きっとすぐに楽になれる。
――ところが、前を見ると、ちょうど橋の真ん中辺りに、女が一人立っていた。
女はじっと水面を見下ろしている。散歩中なのだろうか。だとしたら女が通り過ぎるのを待ってから飛び降りなくてはいけない。ただ、女は水面を見下ろしたまま、いっこうに動かない。P42
女性が飛びおりようとする。だが、主人公はそれを阻止し、ふたりは出会うのだった。それからは、その女性の家に匿われながら、女性の覆面作家としてふたたび小説を書く。
ふたりは再デビューを狙うことに意気投合し……時効成立まで逃げ切れるのだろうか……という物語である。そして本書の帯には、
『
嘘を積み重ねた
ゴーストライター作戦で
時効成立まで
逃げ切れるか!?
』
と書かれている。ふたりは結婚し……ふたりの子どもに恵まれ……その一方、幾度もピンチが訪れるのである。長男が小学校に入学し、
一年一組の教室に入ると、「かぞくのさくぶん」と黒板に大きく書かれていた。P181
「ぼくのおとうさんは、さっかです」
――出だしの一文を聞いて、賢は頭を殴られたような衝撃を受けた。P182
表上の作家は、妻ということになっている。長男に暴露され、あらゆるところでゴーストライター説が流れる。このピンチをどのようにして乗り越えるのか……。
読んでたしかめてほしい!冒頭の50〜70ページくらいまでは下ネタが多めなので、そういうのを受けつけない人は読まないほうがいいかもしれない!それほどひどい下ネタはないが……。
「笑いあり涙あり!」のピカレスク・サスペンスなのである。


売れない小説家・大菅賢は、担当編集者を口論の末に死なせてしまい、逃亡する。潜伏先で自殺を決意するも、すんでの所で桐畑直美と出会い、匿われることに。さらに、直美の覆面作家として賢が小説を書いて再デビューを狙うことで二人は意気投合するのだが、そんな前代未聞のゴーストライター作戦が簡単にうまくいくはずもなく―。著者渾身の傑作ピカレスク・ホームコメディ!
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