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『笑え、シャイロック』不良債権回収で全国に名を馳せる「伝説の取り立て屋」

中山七里氏の『笑え、シャイロック』という本国内ミステリー
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『笑え、シャイロック』は、中山七里氏の新刊小説(2019年6月16日時点)である。

「あの男は、銀行の闇を知り過ぎた。」

「“どんでん返しの帝王”が金融業界の暗部を暴いた、ノンストップ・ミステリー!」

「不良債権回収で全国に名を馳せる「伝説の取り立て屋」、山賀雄平。彼は閉塞ニッポンの救世主か、庶民の明日を奪い去る悪魔なのか。」

と帯に書かれている。不良債権回収で全国に名を馳せる「伝説の取り立て屋」ということなので、おもしろそうである。さっそく、あらすじと感想を書いていく。

『笑え、シャイロック』の【目次】
  • 一、わらしべ長者P5〜
  • 二、後継者P69〜
  • 三、振興衆狂P133〜
  • 四、タダの人P193〜
  • 五、人狂にんきょうP257〜
  • エピローグP319〜

主人公の結城ゆうき慎吾しんごは、帝都第一銀行の行員である。

実際、結城は二年目で主任に昇格した。同期入行の者も何人か同時に昇格したが、酒の席でそれとなく確認してみると自分の方が二千円だけ基本給が多い。たかが二千円とわらうなかれ、はや二年目で基本給にそれだけ差が出れば、退職時には大きな格差に変わっているはずだ。
自分の人生は順風満帆だ――そう思っていた三年目に移動の内示を受けた。移動先はこれも都内の大型店舗。移動の理由については自分でも大方見当がついたのだが、所属部署を聞いて耳を疑った。
渉外部。
営業部が銀行の表道なら、渉外部は裏道だ。焦げつきそうな債権を回収し、そのカネをまた融資に回す。営業と管理は経営の両輪であるのは重々承知していても、それでも引かれ者の吹きまりのような印象はぬぐえない。P7〜8

入行して三年目の主人公が渉外部に移動し、山賀やまが雄平ゆうへいという男が上司となるのだ。

喜々ききとして回収に取り組んでいる姿は天職としか思えず、いつしか山賀は<シャイロック山賀>などという物騒な綽名あだなを献上されるに至ったらしい。シャイロックというのは『ヴェニスの商人』に登場したユダヤ人の金貸しの名前だが、そこから連想されるのは情容赦ない取り立て屋の印象だ。P10

シャイロック山賀とともに債務者のもとへ回収しに行く日々がつづき……そしてある日、公園でシャイロック山賀が刺殺される。

シャイロック山賀の仕事を引き継いだ主人公に、

「これから山賀さんの担当した顧客たちに会うのでしょう。今までの経緯と相手の反応で、少しでも犯人の可能性があれば教えてほしい。ついでに当日のアリバイが確認できればなおいい」P96

と刑事に協力を持ちかけられるのだ。シャイロック山賀を殺害した犯人は、債務者のなかにいるのだろうか……。主人公と刑事がコンビを組み、その真相を追うという物語である。

『「二、後継者」→(債権残高が20億円ほどある、二代目経営者)』『「三、振興衆狂」→(債権残高が20億円ある、新興宗教の館長)』『「四、タダの人」→(10億円の債務者である、前国会議員)』『「五、人狂」→(55億円の、暴力団のフロント企業)』という4人の相手から債権回収をおこなうのだ。

どの人物も一筋縄ではいかず、「ない袖は振れない」とひらきなおるのである。

「はじめまして。帝都第一銀行渉外部の結城と申します」
「館長の稲尾いなおです。何でも前任の山賀さんがお亡くなりになったそうで……お気の毒でしたな。新聞やテレビの報道では何者かに殺害されたとか」
「現在、警察が捜査中です。早く犯人が逮捕されればと思っています」
「手前どものご担当になった頃から熱心に入信を勧めていたのですが」
「あの山賀に入信をですか」
「ええ。奨道館しょうどうかんに入信し、教祖さまのご加護さえあれば山賀さんも殺されずに済んだでしょうに。それを思うと残念至極ですよ。何度もお誘いしたのに、あの人ときたら耳を貸そうともしなかった」
「耳よりもおカネを貸すのが仕事ですからね」
冗談のつもりで言ってみたのだが、稲尾はにこりともしなかった。P136

「あなたは何故、山賀さんが命を落とされたのか理解されていないようですね」
「何ですって」
「あの人は奨道館を、教祖を愚弄しました。だから当然のごとく神罰が下ったのです。あなたや他の帝都第一行員も例外ではない。奨道館に災いをそうとする不届き者は一人残らず滅殺される運命なのです」
これ以上、話しても無駄だ。
結城は腰を上げたが、稲尾の激昂はまだ収まらない。
「今すぐ奨道館に対する債権を放棄しなさいっ。それ以外に神罰を避ける手立てはありません」
万策尽きたら、最後は神の名を騙っての恐喝とは。使い勝手のいい神様もあるものだと感心する。P145

債権を放棄しないと神罰がくだるのだという……。メインは、どのようにして返済させるかを楽しむ作品である。そのため、コンゲーム系が好きな人であれば、おもしろいと思えるだろう。

しかし、シャイロック山賀が殺害される「フリ」と、その真相の「オチ」がよろしくない。

「主人公と刑事のコンビにしたいな」→「シャイロック山賀を殺してしまえ」→「殺しちゃったし、「オチ」をつけないといけないな」→「面倒なので大雑把に風呂敷をたたんでおこう」という感じが否めないのだ。

個人的には殺人事件がなくても、じゅうぶん楽しめる。メインの足を引っ張っていると感じるほどである。殺人事件は「おまけ」と思って読めば悪くないので、コンゲームが好きな人におすすめしたい作品である。

そして、「シャイロック山賀」を連発して「うるさいな」と思ったかもしれないが、わたしが気にいってしまったので仕方がないのだ。そのため、さいごにシャイロック山賀との会話文を紹介して終わることにする。

「この世で一番大事なものはカネだ。異論は認めん」
山賀は、それが当然だという口調で言い放った。しかし人懐っこい表情を崩さないままだったので、聞いていた結城はつい言葉を返してしまう。
「おカネは二番目で、一番はやっぱり命じゃないですか」
「違うな。大抵のものはカネで買える。生命保険を見ろ。あれは命をカネに換算しているようなものじゃないか。数多あまたの中にはカネで買えないものもあるというだけの話だ」P5(冒頭文より)

シャイロック山賀をどうぞよろしく〜。

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