「嵐の孤島に閉じ込められた39人の児童。」「次々に現れる猟奇的な死体。」「誰も予想できない殺人鬼の正体とは⁉」「若手本格ミステリ界の鬼才が挑む、戦慄のクローズドサークル!」と帯に書かれた、早坂吝氏の『殺人犯対殺人鬼』を紹介する。
『殺人犯対殺人鬼』の【目次】
- 第一節は、数多の神話に語り継がれる黄金の果実P9〜
殺人鬼Xの過去P80〜- 第二節は、人語を解する深き森の暗黒獣P94〜
殺人鬼Xの過去P139〜- 第三節は、世界の終わりを告げる七人が奏でる楽器P104〜
殺人鬼Xの過去P172〜- 探沢の推理P186〜
- 殺人鬼Xの過去P198〜
- 殺人鬼はお前だP209〜
剛竜寺翔、殺しに来たぞ。
僕は心の中で宣言した。その瞬間、抑え込んでいた殺意がぶわっと噴き出してきて、全身が熱くなった。P9
上記は冒頭である。主人公の“僕”の網走一人が、剛竜寺を殺害するために、児童養護施設の部屋に侵入した。しかし、剛竜寺は殺されていたのだ。
網走の計画は頓挫した。13歳の中学一年生である網走は、自室のベットに寝転がり、今後のことを考えるのだった。
あの剛竜寺の殺し方――喧嘩でカッとなって殺してしまったとか、単なる復讐殺人だとかには到底思えない。どうしてあんな猟奇的な殺し方を……。
待てよ。「どうして」も何も「猟奇的な殺し方」そのものが犯人の目的だったんじゃないか?つまり残酷な殺し方をすることに快楽を覚える異常者というわけだ。
もし犯人の目的がそれだけなら、殺すのは誰でもいいことになる。無差別殺人鬼――そんな危険人物が嵐に閉ざされたこの孤島にいる?
それは三十七人の児童の誰かなのか(あまり幼い子にはさすがに無理だろうけど)。それとも本土に渡ったふりをしてまだ島に潜んでいる職員の誰かなのか。はたまた外部の人間か。
だけど外部の人間といっても、施設のクルーザーに潜んで密航するのは無理だろうし、狭い島だから他に船が着いたら気付きそうな気もする。だとしたら、やっぱり内部犯か。P16〜17
網走は猟奇的な殺人鬼を追いながら、数人を殺すという計画のつづきを実行しようと決意する……という物語である。
登場人物の名前は憶えやすい。たとえば、
- 暴力団組長の息子→「剛竜寺翔」
- ゴボウのように痩せて長身→「御坊長秋」
- お調子者の肥満児→「飯盛大」
- 最年長だが舐められている→「最上秀一」
- 探偵気取り→「探沢ジャーロ」
こんな感じで憶えやすくなっているので、登場人物を憶えられないということはないだろうし、混乱することもないはずである。
そして、次々とアルデンテな事件が起きるのだ。
「だとしても、そんなことをする理由が分からない。まったくアルデンテな事件だよ」
唐突にスパゲッティ用語が紛れ込んだ気がして、思わず聞き返した。
「え、アルデンテ?」
「歯ごたえのある事件という意味さ」
「ああ、なるほど……」
父親のイタリア語が移ったのか。それともそういう設定か。P55
網走と探沢の会話である。アルデンテな事件を解決することはできるのか……網走は殺人鬼を出しぬき、殺人鬼に殺されずに殺人計画を遂行できるのか……。
ちょっとだけグロい描写があるが、とてもおもしろい作品なのでおすすめである。
孤島の児童養護施設に入所している男子中学生の網走一人。ある夜、島の外に出た職員たちが嵐で戻れず、施設内が子どもたちだけになった。網走は、悪質ないじめを繰り返していた剛竜寺の部屋に忍び込む。許せない罪を犯した剛竜寺を、この手で殺すためだ。しかし剛竜寺はすでに殺されていた。その姿を見て震え上がる網走。死体は、片目を抉られて持ち去られ、代わりに金柑が押し込まれていたのだ。その後もまるで人殺し自体を楽しんでいるかのような猟奇殺人が相次ぐ。「この島に恐ろしい殺人鬼がいる」―網走はその正体を推理しながら、自らも殺人計画を遂行していくが…。
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