「初読はミステリ、二度目はホラー。この謎に、あなたもきっと囚われる。」と帯に書かれた、澤村伊智氏の『予言の島』を紹介する。
大原宗作(おおはらそうさく)が自宅の賃貸マンションで自殺しようとしていたところを、間一髪で阻止したのは彼の父親だった。P16
第一章の冒頭である。父親は朝9時に兵庫県の自宅から電車を乗り継ぎ、4時間かけて東京の息子宅まで行った。「息子のところに行け」と死んだ妻に言われたような気がしたのだという。その結果、息子の自殺を阻止することができたのだった。
主人公の男性は、数少ない友人が助かったことに安堵したのである。そして自殺の理由は、
宗作が心を病み、自殺を試みた理由は簡単に説明できる。実家に戻っと今も度を越した劣等感と敗北感、そして被害妄想に苛まれているのは、いわばその後遺症だ。
こうして言葉にすると陳腐に思えるが、淳の友人が当事者となると話は別だった。それもあの宗作が。博識で頭も切れるが決して杓子定規ではなく、むしろ柔軟で人当たりもいい彼が。
新卒で入った大手通信会社を五年で辞め、転職先のIT企業を七年で辞め、次に入った若いベンチャー企業で、彼は上司に連日罵倒された、という。
残業は月百二十時間を超え、一日の睡眠時間は三時間がせいぜいだった、らしい。
「今でも聞こえるんだ……『これはお願いじゃない、業務命令だ』って」P22
ブラック企業で上司のパワーハラスメントに遭ったのだ。
ふと思いだしたのである。女性がパワハラ自殺してしまった「ビ・ハイア」のことを……。社長の指示で、深夜の仕事中は3分おきに「起きてます」とLINEをしていたらしいが……こんな頭のおかしい人の指示に従う必要はない。文句を言わずに従ってしまう人は、根っからの真面目な人なのだろう。
そして本書は、3人の男性が集まっているとき、そのうちのひとりがあることを提案するのだった。
「でもここは別や」春夫はこちらに顔を近付けると、「霧久井島(むくいじま)にはな、こんな話が出回っとんねん。九〇年代半ばにここで心霊番組を撮影してたら、出演してた霊能者がおかしくなった。しかもその後すぐに死んだ。番組はお蔵入りになって、スタッフも霊能者の家族も次々不幸に見舞われた。つまり――祟りに遭(お)うたんや」
声を潜めて、まるで怪談か何かを話す時のように、
「霧久井島はむかし流刑地で、罪人たちの無念とか怨念が残っててん。今でもこの島を訪ねたら変な声を聞いたり、不幸になったりするらしい……まあこの辺は完全な与太やけど、大事なんはそこちゃう」
淳、そして宗作の顔を順に見つめて、
「そのおかしくなって死んだ霊能者いうんが、あの宇津木幽子(うつぎゆうこ)やねんて」
と言った。
「うそ」
淳は大きな声を上げていた。
宗作が何か言おうとしたところで、春夫が「しかも」と畳み掛ける。
「宇津木幽子は死ぬ直前に予言残してるんや。言うたら生涯最後の予言やな。そこにこう書いてあんねん――今年の八月二十五日から二十六日の未明にかけて、霧久井島で六人死ぬってな」P33〜34
ということで、彼らは霧久井島に行くことになった。「霧久井島で六人死ぬ」という宇津木幽子の予言は当たるのか……。
そして読了したとき、「二度目はホラー」の意味を知ることになるだろう。物語はゆっくりすすむため、派手に展開していく作品ではない。そういうのが苦手な人にはおすすめできないが、ミステリー好きであれば楽しめるはずである。
瀬戸内海に浮かぶ霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が生涯最後の予言を遺した場所だ。彼女の死から二十年後、“霊魂六つが冥府へ堕つる”という―。天宮淳は幼馴染たちと興味本位から島へ向かうが、宿泊予定の旅館は、怨霊が下りてくるという意味不明な理由でキャンセルされていた。そして翌朝、幼馴染のひとりが遺体となって発見される。しかし、これは予言に基づく悲劇のはじまりに過ぎなかった。不思議な風習、怨霊の言い伝え、「偶然」現れた霊能者の孫娘。祖母の死の真相を突き止めに来たという彼女の本当の目的とは…。あなたは、真実に気づくことができるか―。比嘉姉妹シリーズ著者初の長編ミステリ。
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