『本と鍵の季節』は、米沢穂信氏の2年ぶりの新刊で、放課後の図書室に持ちこまれる謎に、男子高校生ふたりが挑む短編集である。
【目次】
- 913P7〜
- ロックオンロッカーP63〜
- 金曜に彼は何をしたのかP103〜
- ない本P157〜
- 昔話を聞かせておくれよP199〜
- 友よ知るなかれP273〜
913
ふたりが図書室で話していると、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。ふたりは以前、暗号を解いたことがあった。そのことを知っていたため、相談に乗ってほしいのだという。
「おじいちゃんが死んだんだよね」
「そうだったんですか」
「あ、結構前のことだから、そんな気の毒そうな顔しないで。でね、いいおじいちゃんだったんだけど変なところで凝り性で、いまちょっと困ってるの。恥ずかしい話なんだけど……」
恥ずかしいと言いながら、先輩は少し嬉しそうだ。
「金庫に鍵かけたまま死んだのよ」
P17
ダイアルをまわして番号を合わせるタイプの金庫だが、その番号は不明なのだとか……。番号を示唆するような暗号があるらしく、それを解読することに挑戦してほしいのだという。
そのあと先輩女子の家に行き、おじいさんの書斎を調べた結果、本棚の一部の本に違和感を覚えたのである。
先輩女子に訊ねてみると、違和感を覚えた複数の本には、『要返却』と書かれた付箋が貼られていたという。統一感のないそれらの本をヒントに……金庫の番号を導きだすことはできるのか……。
ロックオンロッカー
通っていた床屋が閉店し、散髪するのに困っている。そのように相談され、『友だちを紹介するとどちらも4割引』という美容院の割引券を持っていたため、ふたりでそこに行くことにした。
美容院にはロッカーがある。だが、貴重品はビニール袋に入れて手元に持っていてほしい、と店長は言うのだった。
どうしてそんなことを言ったのか、その謎を解明するのである。
金曜に彼は何をしたのか
期末テスト2日目の放課後、後輩が訪ねてきた。
職員室のまえの窓を割って学校に侵入し、テストの問題を盗もうとした生徒がいる。後輩の兄が疑われていて、その日のアリバイを兄に訊ねたが、「証拠はあるからだいじょうぶだ」としか言わない。
やっていない証拠はほんとうにあるのか、弟は自宅の部屋などをさがした。しかし見つからなかった。そのため、証拠があるのかをさがしてほしいのだという。
ない本
自殺した先輩の友人が、1冊の本をさがしてほしいという。それは自殺した友人がさいごに読んでいた本である。紙をはさんでいるところを目撃していたことを思いだし、その紙は遺書かもしれないのだと……。
しかし、本を特定する手がかりはほとんどない。たぶん図書室の本で、タイトルや著者名などの記憶は残っていない。果たして遺書は見つかるのか……。
昔話を聞かせておくれよ
あるところに自営業者がいた。商売はうまくいっていたが、後ろ盾のない仕事の将来が不安だったらしく、儲けのなかからすこしずつ現金をプールしていた。
そんなある日、自営業者の近所に空き巣がでた。物騒な話だと近所の噂になり、自宅に現金を持っている自営業者は嫌な気持ちになった。
空き巣事件は数件つづき、自営業者が不安になったところで警官が家に訪ねてきて、自営業者に怪しい人を見なかったかと訊ねてきた。ついでに、もし多額の現金を持っているなら安全な場所に移したほうがいいと言われたのだった。
プールしていた現金を移したあと、空き巣の犯人は逮捕された。その人物は、自営業者の家に警官としてやってきた男だった。現金を盗まれることはなかったが、自営業者は現金をもどすまえに他界してしまった。
「……残された息子は、父親が隠した金を見つけたいと思いました。どこかに隠したままでは、誰かが偶然見つけてしまわないとも限らないからです。それから六年間、あらゆる場所を探し、絞れるだけの知恵を絞って、そのせいか隠し事には少々鼻が利くようになりました。最近になって、一文の得にもならないのに他人の相談に乗る変わったやつと知り合ったこともあり、思いもかけずひとの問題を解決したりしなかったりするようになったのです」
P215
上記のような話を聞かされたのち、いまでもたまに金を探しているのだという。
それからふたりで手がかりを見つけようとする。自営業者の父親が仕事のときに使用していた車が、月極駐車場に放置されているのを発見して次々と手がかりをつかむが……。
友よ知るなかれ
未読の人のために、この作品の内容にはいっさい触れないでおく。
さいごに
小さな謎をここまでうまく書き、読ませるのはさすがである。フェアであるためしっかり読めば、真相を知るまえに答えにたどり着けるように構成されている。
そして、この記事を読んだ人は複数の引っかかる部分に気づいたはずだが、これ以上あらすじを書いてしまうと楽しめなくなるだろう。
『本と鍵の季節』はバランスのとれた良作である。
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが…。図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
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