下村敦史氏は早いペースで作品を発表してくれるのでありがたいことである。2018年12月〜2019年8月のあいだに、3冊も発刊されている。3か月に1冊のペースである。
2018年12月に発刊された『悲願花』は、作中の仕掛けに驚かされることだろう。

そして2919年の5月には『刑事の慟哭』が出版されているため、ついでに紹介しようと思う。
ふつうの作品である。後半までは結末を知りたくなり、ページをめくる手をとめることができない。しかしラストはあっさりしていて、竜頭蛇尾なのは否めないのである。
「痛切で感涙必至の警察小説」と帯に書かれている。最後は泣かせようとしているのだろうが、その泣けるようなシーンを使い、竜頭蛇尾のところを誤魔化しているように思える。これが小説でなくなにかの概要であれば、きれいにまとまっていてすばらしいだろう。
思いつく欠点はないが、「これ」という美点もない。わたしは小さな瑕疵があってもいいので、圧倒的な美点がひとつあるような作品を好む。そのため、ふつうの作品と言わざるを得ない。
新宿署の刑事・田丸は、本部の方針に反して連続殺人事件の捜査を行い、真犯人を挙げた。結果、組織を敵に回し、署内で厄介者扱いされていた。管内でOLの絞殺体が見つかった。捜査の主軸から外された田丸は、帰宅途中に歌舞伎町の人気ホストの刺殺体を発見する。二人の思いがけない共通点に気づき、その筋を追うことを会議で提案するも叶わず、相棒の神無木と密かに捜査を行うことに―痛切で感涙必至の警察小説。
絶声
7年半ほどまえのある日、昭和の大物相場師と呼ばれていた男が忽然と姿を消した。失踪した当時の年齢は68歳、膵臓がんを患っていた。
子どもは3人いる。男女ともにひとりずつと、後妻の息子である。後妻はすでに他界しているため、大物相場師だった男の遺産を相続するのは、3人の子どもたちなのだ。遺産の総額は15億円ほどある。それを3人で均等にわけたとき、相続税を引いてもおおよそ3億円だという。
行方不明者の生死が七年以上明らかでないとき、利害関係人――行方不明者の配偶者、相続人、財産管理人など――が家庭裁判所に申し立てることができる。失踪が宣告されると、その行方不明者は法律上、死亡扱いとなるため、財産の相続などが可能だ。
人一人の生死に関わる問題だから、家庭裁判所の調査官は慎重に調査しなければならない。P16
死亡扱いとなる寸前、大物相場師だった男のブログが更新される。その結果、死亡扱いは保留となり、3人の子どもたちは大金を得ることができないことに怒り狂うのである。
大物相場師だった男は生きているのか……死亡扱いとなる寸前にブログを更新した理由はなんなのか……ブログを更新したのは本人なのか、それとも第3者なのか……3人の子どもたちは膨大な遺産を少しでも多く手にするために争い、そしてその結果はどうなるのか……。
親の遺産をあてにしている人に出会ったことがあるわたしは、この小説を読みながら、そのときのことを思いだしてしまったのである。
20代半ばからの数年間、わたしは小さな会社を経営していた。そのとき、面接にきた男性の履歴書を見ると、現在31歳、22歳のときに大学を卒業、職歴は某ハンバーガー店のアルバイトを2年ほどのみ……両親は健在、父親は会社を経営、兄と姉がひとりずついるらしい……大学卒業後の9年間、2年ほどのアルバイトのみということは……。
あれ……あとの7年くらいはなにをしていたのだろうか……とわたしは思い、それを訊いてみると、パチンコとスロットをやっていたという。
そのあと、「正社員の経験がなく、資格もない。将来が不安になることはないのですか」と訊いてみると、「親が死んだときに遺産がもらえるので大丈夫だと思う」と言うのだった。
そんなことを思っていても、ふつうは口に出さないだろう。わたしはびっくりしてしまったのである。言わずもがな不採用。
遺産を相続することができるのは未成年のみ。そのように法改正したらいい、とわたしは思っているほどである。財産目当ての家族間の殺人だったり後妻業だったり、それらが耳目にふれるたびにばかばかしいと思ってしまう。大人なのだから自分の面倒は自分でみなさい、ということである。
そして、「驚愕のラスト&圧倒的リーダビリティの極上ミステリー!」という帯の文言は、偽りはなく誇張もしていない。「驚愕のラストに再読必至!」とも書かれている。わたしもそのとおりだと思う。
気をつけてほしいのは、
上記のようにAmazonで検索すると、


もしかして……じゃ、ねぇ〜Yo〜
そうツッコミを入れてしまうだろう。それだけは気をつけてほしいのだ!
コメント